スコット・ヘレンの周到なカット&ペースト感覚が光る、知的サウンド・コラージュ
ラップは行動、ヒップ・ホップは信条
とあるミュージシャンが語ったことがあるそうだが、僕が今ひとつヒップ・ホップに馴染めないのは、“尖ったナイフ”のように挑発的なメッセージ性があまりにも強いあまりに、純粋音楽としての魅力をかなり削いでしまっているような気がしてならないからだ。
社会啓蒙や政治的メッセージが強まれば強まるほど、音楽体験そのものを楽しむ余地は狭まってしまう。踊ることを目的とせず、電子音に囲まれた静的で没入的な体験を求める僕のようなリスナーは、まったりと聴ける音楽をいつだって求めている。
その点で、スペイン在住のアメリカ人ミュージシャン、スコット・ヘレンによるソロ・ユニットPrefuse 73は、ジャスト自分好み。デビューアルバム『Vocal Studies & Uprock Narratives』(2001年)は、既存の音楽素材を解体し、再構築するというヒップ・ホップの基本フォーマットを徹底的に体現しており、その手法は「雑誌や新聞の文字を、切り抜き文章として再構築した短編小説」のよう。
Prefuse 73 の特徴的な手法が、ボーカルの微細な切り刻み(いわゆる「ボーカルチョップ」)によって新たなメロディックラインを創出するテクニックだ。これにより、従来のヒップ・ホップ・サンプルの機械的・即興的な性格が、緻密かつ有機的な音楽表現へと昇華される。
ドラムパターンやベースラインの配置も高度に計算されており、ジャズやエレクトロニカに通じるポリリズミックな感覚が随所に見られる。断片化されたボーカルやサンプルが異なる調性の音素として組み合わされ、非従来的なコード進行やモード的進行を生成することで、緊張感と解放感が高まっていく。
スコット・ヘレンは、Savath+Savalas名義でミニマル・テクノ的な実験を行っているが、この活動がPrefuse 73の音楽性に影響を与えていることは間違いない。
有機的な音素が静的な空間の中で収斂していく手法は、ヒップ・ホップの即興的・サンプリング的精神と結びつきつつ、独自の音響美学を確立している。シー・アンド・ケークのサム・プレコップやトータスのジェフ・パーカーとの交流を通じ、シカゴ音響派のミニマル・ジャズ的感覚とも接続することで、ジャンル横断的な豊かさを獲得していることも見逃せない。
Prefuse 73のアプローチは、既存のヒップ・ホップの精神──音楽の解体と再構築、サンプリングを通じた自己表現──を純粋に体現している。スコット・ヘレン自身にその意識があるかどうかは定かではないが、彼の音楽はまさに「純正ヒップ・ホップ」と呼ぶに相応しい。
- アーティスト/プレフューズ73
- 発売年/2001
- レーベル/Warp
- ジャンル/エレクトロニカ,ヒップホップ
- プロデューサー/スコット・ヘレン
- Radio Attack
- Nuno
- Life/Death (with Mikah 9)
- Smile In Your Face
- Point To B
- Five Minutes Away
- Living Life (with Rec Eenter)
- Eve Of Dextruct
- Last Light (with Sam Prekop)
- Cliche Intro
- Back In Time
- Hot Winter's Day
- Blacklist (with MF Doom & Aesop Rock)
- Untitled
- Afternoon Love-In
- 7th Message
- Vocal Studies + Uprock Narratives(2001年/Warp)

