スコット・ヘレンの周到なカット&ペースト感覚が光る、知的サウンド・コラージュ
ラップは行動、ヒップ・ホップは信条
とあるミュージシャンが語ったことがあるそうだが、僕が今ひとつヒップ・ホップに馴染めないのは、“尖ったナイフ”のように挑発的なメッセージ性があまりにも強いあまりに、純粋音楽としての魅力をかなり削いでしまっているような気がしてならないからだ。
特に最近の和製ヒップ・ホップは右傾化の一途をたどっており、啓蒙の手段としてのヒップ・ホップがメインストリームになってしまっている。
“踊れないテクノ”として「リスニング・テクノ」が誕生したのはありがたかった。僕は踊りたいのではなく、電子の音に囲まれて、まったりしたかっただけなのだから。
そうだ、まったりだ!!僕にもまったりできるヒップ・ホップをくれ!!エミネムみたいに
アバズレめ、俺はお前の声が出なくなるまで首を締め付けてやるぜ!!
とか
俺はブラック・ミュージックを自分のモノにしてるってことじゃ、エルビス・プレスリー以来の悪人かもしれねえな
とか、そんな攻撃的なリリックは言わなくていいから、純粋に音楽を愉しませてくれ!
ヒップ・ホップの基本フォーマットは、「音楽の解体→再構築」というアプローチであるハズ。すなわち、「既成の音楽をコラージュして、新しい音楽をクリエイトする」というアチチュードである。
その意味では、スペイン在住のアメリカン・ボーイ、スコット・ヘレンによるソロ・ユニット「プレフューズ73」ほどヒップ・ホップらしいヒップ・ホップはない。
デビューアルバム『Vocal Studies & Uprock Narratives』(2001年)は衝撃的だった。HMVのサイトには「雑誌や新聞の文字を切り抜き文章として創り上げた短編小説の様な感覚」なんていうレビューが載っているが、まさに言い得て妙。
アプリケーションの発達によってあまりにもシームレスになってしまったサウンド・コラージュという手法が、スコット・ヘレンの周到なカット&ペースト感覚によって、血肉を得ている。
何てったって彼はヴォーカルの音すら細かく切り、そのサンプルを複数組み合わせて一つのボーカルサンプルを作るという、「ボーカルチョップ」なる荒業でヒップ・ホップを成立させてしまっているのだから!!
スコット・ヘレンが同時進行で活動を行っているSavath+Savalasは、有機的な音素がミニマルな空間で収斂していく、エクスペリメンタル・テクノの側面が強い音響設計だったが、Prefuse 73はもうバッチリとヒップ・ホップである(ただし多分にエレクトロニカ寄り)。
ザ・シー・アンド・ケークのサム・プレコップがフューチャリングされた『Last Night』が収録されていたり(同ナンバーでちょこっと流れるフレーズは、サム・プレコップがソロ名義でリリースした名曲『The Company』である)、トータスのジェフ・パーカーとも交友関係があったりして、シカゴ音響派にもかなり近い存在のようだ。
プレフューズ73はどうも「ヒップホップの現代的な解釈」とか言われがちなんだが、ヒップホップのルーツを考えれば、彼らのアプローチこそが純正のヒップホップなんではないかと考える今日この頃である。
たぶんスコット・ヘレンには、そういう意識はないだろうけど。
- アーティスト/Prefuse 73
- 発売年/2001年
- レーベル/Warp
- Radio Attack
- Nuno
- Life/Death (with Mikah 9)
- Smile In Your Face<
- Point To B
- Five Minutes Away
- Living Life (with Rec Eenter)
- Eve Of Dextruct
- Last Light (with Sam Prekop)
- Cliche Intro
- Back In Time
- Hot Winter’s Day
- Blacklist (with MF Doom & Aesop Rock)
- Untitled
- Afternoon Love-In
- 7th Message
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