新生くるりが、弛むことのない音楽的革新性を高らかに謳い上げた一枚
岸田繁の驚異的な音楽的雑食性は、留まることを知らない。
もはや彼からアウトプットされる作品は、ロックというイディオムから楽々と解き放たれ、既成のカテゴリで括るのが困難なほど、新しいコンポジションを確立させてしまっている。
もはやそれは原初的な創作衝動ではなく、高次元の理論とテクニックの実践によって商品化された、プロダクトのショーケースのようだ。
クラシックの都ウィーンで録音したというこの『ワルツを踊れ Tanz Walzer』(2007年)も、ビート・オリエンテッドからメロディー・オリエンテッドに舵を切った“新生くるり”の、弛むことのない音楽的革新性を高らかに謳い上げた一枚だと言えるだろう。
管楽器隊の暖かみのあるストリングスとサイケデリックなバンド・サウンドが渾然一体となったM-3『ジュビリー』、プログレ全開のM-5『アナーキー・イン・ザ・ムジーク』、ロシア民謡のようなサウンドが可愛らしいM-12『ハヴェルカ』、『天然コケッコー』主題歌としてシングルカットされた至極のバラード『言葉はさんかくこころは四角』。
変拍子のミドルテンポ・ナンバーぞろいのアルバムを一聴して、正直僕は「地味な曲が多いな~」という印象を覚えたんだが、それでも不思議に耳にこびりついて離れないのは、まるで『みんなのうた』のごときシンプルなメロディーが、何よりも音楽としての“絶対的普遍性”を勝ち得ているからだ。
岸田繁は某インタビューにおいて、「説明するのが難しいですが、ロックとかポップスではなく、音楽を作ったと思います」と発言している。
リズムではない。ハーモニーでもない。リリックでもアレンジでも、当然のごとくビジュアルでもない(正直『TEAM ROCK』(2001年)のころの、360度見回しても鉄毒オタクという風体からだいぶ垢抜けてしまった感はあるが)。
稀代のサウンド・メーカーである岸田繁にとって、まず何よりも優先されるべきはメロディーである。方法論としてクラシックを選択したのではなく、徹底的に純化された”音楽”を志向した結果、クラシックに辿り着いた作品…それがこの『ワルツを踊れ Tanz Walzer』なんではないか。
2007年9月5日、僕は中野サンプラザで行われたくるりの「ふれあいコンサート」を観に行った。『ワルツを踊れ』を中心とした楽曲構成で、当然オーケストラを交えたバンド編成になるものと思っていた。
ところが、オーケストレーションのパートは基本的にキーボードでカバーし、ザ・サスペンダーズなる三人組アカペラグループ(メンバーの一人がやるせなす石井に激似)がコーラス・ワークで音に厚みをもたせるという、色んな意味でスペクタクルな内容だった。
ま、そんなことはどーでもいいんだが、個人的にはライヴではなくコンサートという括り方に、今のくるりの立ち居地が表明されている気がする。
熱狂をオーディエンスと共有する、オールスタンディング形式のライヴではなく、綿密に設計されたサウンドを、ゆったりとした空間でくつろぎながら楽しむことができるコンサート。
何よりもくるりは、“サウンド・コンシャス”なバンドなのだ。
- アーティスト/くるり
- 発売年/2007年
- レーベル/ビクターエンタテインメント
- ハイリゲンシュタッド
- ブレーメン
- ジュビリー
- ミリオン・バブルズ・イン・マイ・マインド
- アナーキー・イン・ザ・ムジーク
- レンヴェーグ・ワルツ
- 恋人の時計
- ハム食べたい
- スラヴ
- コンチネンタル
- スロウダンス
- ハヴェルカ
- 言葉はさんかく こころは四角
- ブルー・ラヴァー・ブルー
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