ただ純化された“音”としてリスナーの身体にそっと忍び込み、そのまま溶解していくかのようなアルバム
記憶喪失者=『Amnesiac』(2001年)と名付けられたこのアルバムは、レディオヘッドの前作『Kid A』(2000年)からわずか1年弱というスパンでリリースされた。
そのほとんどの収録曲が、『Kid A』のレコーディング時期である1999年パリでの録音であることから、この2つのアルバムは双生児的関係にある作品とも喧伝されている。実際、発売当時は『Kid B』という揶揄めいた表現も流布したものだ。
トム・ヨークは本作を「『Kid A』を遠くから炎を眺めている音とするなら、『Amnesiac』は炎の中にいるかのような音だ」と語っているらしいが、確かに奏でられるサウンドのニュアンスは微妙に異なっている。
『Kid A』は『OK Computer』(1997年)で提示したエレクトロニカ・ミュージックとの邂逅をさらにブラッシュアップさせ、フリージャズや音響といったテイストをも取り込み、虚ろなまでのニヒリズムをリリックに注ぎ込んだ、エクスペリメンタルな作品だった。
一方『Amnesiac』は、エレクトロニカ・ミュージックを踏襲しながらも、パーカッション、ウッドベース、ピアノなどの有機的な楽器を多用し、夢遊病者のような、浮遊的な音像を構築している。
M-5『I Might Be Wrong』、M-6『Knives Out』、M-8『Dollars & Cents』など、多少『The Bends』の頃のようなバンド・サウンドに回帰している節も見られるが、全体の雰囲気は「ニヒリズム」といった虚無的感情すらも通り越して、湖の底深くに沈殿するかのようなディープネスをたたえている。
変拍子を多用したフリーキーなリズム、四方から迫り来るグリニッチ・ノイズ、そしてトム・ヨークのファルセット・ボイス。音楽という抽象概念がそのまま具象化されず、ただ純化された“音”としてリスナーの身体にそっと忍び込み、そのまま溶解していくかのようなアルバム。
ラップトップ・ミュージックという箱庭的サウンドからも解放されて、『Amnesiac』は厳然と、静謐に、ただそこに在る。
- アーティスト/Radiohead
- 発売年/2001年
- レーベル/Capitol
- Packt like sardines in a crushd tin box
- Pyramid song
- Pulk/pull revolving doors
- You and whose army?
- I might be wrong
- Knives out
- Amnesiac/Morning bell
- Dollars & cents
- Hunting bears
- Like spinning plates
- Life in a glass house
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