『Gorillaz』(2001年/ゴリラズ)
楽曲背景と意味を深掘り考察・批評・レビュー
『Gorillaz』(2001年)は、ゴリラズが発表したデビュー・アルバム。プロデューサーにダン・ジ・オートメイターを迎え、ロック、ヒップホップ、ダブ、そしてパンクをカオティックに融合させたそのサウンドは、既存のジャンルの境界を軽々と踏み越えてみせた。本作の核心は、アニメーションのキャラクターという匿名性の裏側で、音楽的実験を極めてポップに昇華させた点にある。「Clint Eastwood」(1992年)のタイトルを冠した楽曲に見られるような、物憂げな旋律と乾いたビートの共存は、当時の音楽シーンに全く新しいクールな質感をもたらした。
- 2002年ミュージック・マガジン:年間ベスト・アルバム テクノ/ハウス/ヒップホップ[海外]部門 第1位
カートゥーン・バンドとの遭遇
もはや、僕も名実共にオッサン呼ばわりされる年齢となった。
それにつれて記憶力もすっかり怪しくなり、風呂場で「あれ?いま俺シャンプーしていたんだっけ?リンスしていたんだっけ?」と途方に暮れ、結果的に2回もリンスしてしまうことも少なくない今日この頃である。どーなってんだ俺の頭の中の消しゴム。
そんな訳で、ある特定のアーティストやアルバムとの出会いなんぞ、大半は忘却の彼方に消え去っているのだが、何故だかゴリラズとの出会いだけは鮮明に覚えている。
女子2人と僕1人という、文字通りのハーレム状態で伊豆の温泉へ旅行に行った時、レンタカーのステレオから流れてきたのが、彼らのデビューアルバム『Gorillaz』(2001年)だった(ちなみに泊まった宿では、何一つロマンチックなハプニングは起きなかった)。
2D(ボーカル)、ヌードル(ギター)、マードック・ニカルス(ベース)、ラッセル・ホブス(ドラムス)というキャラクターからなる、架空のカートゥーン・バンドという匿名性の強いコンセプト。
それがブラーのフロントマンであるデーモン・アルバーンと、コミック『タンク・ガール』の作者であるジェイミー・ヒューレットによるアナザー・プロジェクトであることは後になって知った。
1990年代後半、MTVで垂れ流される中身のないポップスターたちに辟易していた二人が、「それならいっそ、完全に作られた(=アニメーションの)バンドを作ってしまおう」と企てたシニカルな批評精神が根底にある。
とにかく当時は、ありとあらゆる音楽をジャンルレスに横断した、そのゴッタ煮的なサウンドにハマりまくった記憶がある。
ブルージーな倦怠感とミドルテンポの魔法
シングルカットされて世界的な大ヒットを記録したM-5「Clint Eastwood」、ヘロヘロの笛の音色が程よい脱力感を保証するM-10「Rock The House」、チボ・マットの羽鳥美保による「Get the cool shoe shine!」のシャウトがクールに響くM-11「19-2000」、そしてゆるーいダブ・サウンドが最高に気持ちいいM-16「Dracula」。
ビートを抑えたミドルテンポのトラックこそが、彼らの真骨頂だ。この極上のサウンドスケープを決定づけたのは、ヒップホップ界の鬼才ダン・ザ・オートメーターのプロデュースワークだろう。
彼の起用により、デーモンが持ち込んだUKのメランコリックなメロディに、西海岸のアンダーグラウンドなヒップホップや、トリップホップのザラついたビートが見事に融合した。
特に「Clint Eastwood」などでフィーチャーされたデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンの憑依的なラップは、楽曲にただならぬ凄みを与えている。ヒップホップ・オリエンテッドなロックナンバーを気取りながらも、その本質にはどこかブルージーな倦怠感と、UK特有の曇り空のようなダブの響きが心地よく横たわっているのだ。
匿名性がもたらした極上のユルロック
DVD『Phase One: Celebrity Take Down』(2002年)では、自分で画面操作しながらビデオクリップやショート・アニメを楽しめるなど、メディアの特性を活かしたインタラクティヴな遊び心も旺盛だった。
彼らの拠点である「コング・スタジオ」を探索できるウェブサイトの展開も含め、単なる音楽作品の枠を超えた緻密な世界観の構築は、後のSNS時代を予見していたかのようだ。
当時の音楽誌などで“ブリットポップの雄”と散々もてはやされていたブラーのサウンドに、どうにも馴染めなかった僕も、このアプローチならば文句なしに大歓迎だ。
デーモン・アルバーンという生身のスター性をカートゥーンの裏に隠したことで、パパラッチやタブロイド紙が消費する「ロックスターの虚像」から解放され、結果的に音楽そのものの自由度と強度が跳ね上がっている。
誰とでもコラボレーションできる「器」としての匿名性を手に入れた彼らの革新性は、四半世紀近く経った今でも全く色褪せていない。ヴァーチャルな空間で繰り広げられる極上のユルロックに、これからも幾度となくアクセスしてしまうだろう。
- アーティスト/ゴリラズ
- 発売年/2001
- レーベル/ヴァージン・レコード、パーロフォン
- ジャンル/オルタナティヴ・ロック、ヒップホップ、エレクトロニック
- プロデューサー/ダン・ジ・オートメイター、ゴリラズ、ジェイソン・コックス、トム・ガーリング
- 1. Re-Hash
- 2. 5/4
- 3. Tomorrow Comes Today
- 4. New Genious (Brother)
- 5. Clint Eastwood
- 6. Man Research (Clapper)
- 7. Punk
- 8. Sound Check (Gravity)
- 9. Double Bass
- 10. Rock the House
- 11. 19-2000
- 12. Latin Simone
- 13. Starshine
- 14. Slow Country
- 15. M1 A1
- 16. Dracula
- 17. Left Hand Suzuki Method
- Gorillaz(2001年)
![Gorillaz/ゴリラズ[CD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/71SsScCvjkL._SL1500_-e1621936341694.jpg)