癒しと瞑想が織りなす音の宇宙
ベルギー出身の若きミュージシャン、ナラ・シネフロ。母親がクラシックピアノの教師、父親がジャズサックス奏者という環境で育ち、幼少期から自然に音楽と触れてきた。
もともとは生化学者を目指していたらしいが(意外!)、人生の伴侶となるハープに出会ったことで、バークリー音楽大学に進学。サウンドエンジニアとしての仕事にシフトするため、1年で退学することなったものの、ここで徹底的にアカデミックな教養を身につけた。
その後ロンドンに移り住み、サックス奏者のシャバカ・ハッチングス、ヌビア・ガルシアといったミュージシャンたちと交流を深め、ジャズ・インプロヴィゼーション・コレクティブであるSteam Downに定期的に出演するようになる。
この活動を通じて、彼女の演奏はロンドンのジャズシーンで評判となり、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラの芸術監督ロバート・エイムスとの共演も経験。そして、『Space 1.8』(2021年)で、念願となるデビュー・アルバムのリリースを果たす。
彼女はGuardianのインタビューで、
自分にとって録音は深く医薬的(deeply medicinal)であり、当時の私の身体が必要としていたものだった
外界にセルフケアのための場所がないと感じていたため、自分を癒すのに役立つ音の世界を作り出したかった
と語っている。なるほど、確かにこの作品には、音楽とメディテーション(瞑想)が深く結びついている。
ある記事によれば、自宅の機材はすべて432Hzに調整されたのだという。この周波数はリスナーの心身に穏やかさをもたらし、瞑想やリラックス効果を高めるといわれている。このアルバムは、アーティストと聴き手両方のメディテーション・ツールとして機能しているのだ。
サウンドデザインも瞑想的。ジャズ、アンビエント、エレクトロニカ、ニューエイジが緩やかに横断し、ハープとアナログ・シンセサイザーが織りなす繊細な音の波が、アルカリイオン水のように身体を浸す。
サックスが奏でるフレーズは、彼女の父親から受け継いだルーツを想起させる。その音は中心を担っている訳ではないが、そのリズム感やフレージングは微細なディテールにまで息づき、シームレスに溶け合っている。
通常のコード進行や明確なメロディラインに依存しない、空間とテクスチャーを重視したサウンドスケープも美しい。アナログ的な温かみを残した、現代的なクリアネス。各トラックはそれぞれ異なる風景を描写しているようだ。『Space 1.8』というタイトル通り、そこには無限の宇宙が広がっている。
このアルバムは、伝統的なジャズ・レーベルではなく、エレクトロニック/実験音楽の名門WARPレコードからリリースされている。WARPは1989年設立以来、Aphex Twin、Boards of Canada、Autechre、Flying Lotusといった革新的アーティストを輩出し、ジャンルを超えたサウンドの探求と表現に特化してきたレーベルだ。シネフロの音楽が、ジャンル横断的で革新的であることの証左といえるだろう。
- アーティスト/ナラ・シネフロ
- 発売年/2021年
- レーベル/Warp
- Space 1
- Space 2
- Space 3
- Space 4
- Space 5
- Space 6
- Space 7
- Space 8


