とにかくピースフル、果てしなくフレンドリー。やたら地球に優しいオルタネイティヴ・ラップ
マイケル・ジョーダンがシカゴで「神」と称され、スパイク・リーがニューヨークを拠点にブラック・ムービーを世界に発信し始めた’80年代後半から90年代。
年々白くなるマイケル・ジャクソンの皮膚とは逆の放物線を描いて、ネグロイドはネグロイドとしてのステータスを確立しはじめる。
それは特にミュージック・シーンに顕著だった。ブラック・ミュージックはより攻撃的なヒップ・ホップに先鋭化され、彼等が社会に向けて発するリリックを、白人が受容するという逆転現象が起きる(ヒップホップを支えるマーケットの大多数は、白人のティーンエイジャーだと言われている)。
すっかり軟弱化したWASPにとってかわり、ブラックはその過激さ故に憧れの対象となり、「パワーの象徴」として都市に君臨。例えるなら彼等は音楽界のマルコムXだったのだ。
そんなノトーリアス・B.I.G.やRUN D.M.Cなどギャング・スター・ラップが全盛だった93年、1stアルバム『3Years,5Months & 2Days in the life of…』(1992年)でデビューしたのが、アレステッド・ディベロップメントである。
とにかくピースフル、果てしなくフレンドリー。ギャングスターラップなど眼中になし、やたら地球に優しいオルタネイティヴ・ラップで、僕らのハートをわしづかみ。
ホントはアフリカに行ったことはないのに、「アフリカが黒人の心の故郷だぜ!!」と熱唱するリーダー・Speechが創造する音楽は、鳥がさえずり、軽めのスネアが優しく音楽を包み込む。エコロジー、リサイクル、ネイチャー思考が全編を貫く。
しかも、なぜか精神指導者みたいなジジイこと“ババ”が、杖を持って座っている(このジジイは本当に座っているだけ。楽器なぞ何も持たないのだ)。例えるなら彼等は、音楽界のガンジーなのだ!!!
生楽器を多用したサウンドとスピリチュアルなメッセージが、当時いかに斬新だったことか。ギャング・スター・ラッパーが、いかに過激なリリックで聴衆を挑発したところで、ババがだまってステージの中央に座っている図にはかなわない。
そーだ、いいぞババ!!暴力反対!!平和万歳!!しかもアレステッド・ディベロップメントは『Tennessee』、『People Everyday』の2大ヒットでグラミー賞を2部門も受賞してしまったのだ。おめでとうございます。
スピリチュアルだけだったら、単なるニューエイジとして認識されていた彼等の音楽は、Speech(スピーチ)のインテリジェンスとオアソビ心によって、ジジイのたたずまいすらも一種の「スピリチュアル的な記号」として、人々に認知させることに成功したのだ。
アレステッド・ディベロップメントは次作『Zinggalamaduni』(1994年)を発表後、アッサリと解散。
スピーチはソロとして活動を始めたものの、よほどファミリーが懐かしかったのか、再結成を果たす。残念ながらフルメンバーが再招集されてはいないが、ババはちゃんといる。でも音楽にはやっぱりたずさわってない。
- アーティスト/Arrested Development
- 発売年/1992年
- レーベル/Chrysalis
- Man’s Final Frontier
- Mama’s Always On Stage
- People Everyday
- Blues Happy
- Mr. Wendal
- Children Play With Earth
- Raining Revolution
- Fishin’ 4 Religion
- Give A Man A Fish
- U
- Eve Of Reality
- Natural
- Dawn Of The Dreads
- Tennessee
- Washed Away
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