15歳の少女の情念が渦巻く、モンスター・デビュ-・アルバム
最近、椎名林檎とデュエットした『I Won’t Last A Day Without You』を聴いて気づいたんだが、宇多田ヒカルのヴォーカルは圧倒的に「重い」。
情念が渦巻いてるというか、言霊に何かが乗り移っているというか、 恋を唄ってもどことなく脅迫まがいというか。とにかく声の質量が「重い」んである。直訳して「あなたなしでは生きられない」という歌詞が、本来なら椎名林檎の専売特許であるはずの情念を勝る勢いで、聴く者を圧倒するんである。
例えば椎名林檎の『歌舞伎町の女王』は、下世話なほどの巻き舌ヴォーカルで大正浪漫的アングラ路線まっしぐらだったが、この声質はキュートで愛らしかったりするので、それがいい案配でイタイ感じ。
しかし、もしこの曲を宇多田ヒカルが唄っていたら…と思うとゾッとする。刹那的で切実すぎるヴォーカルが、リアルを通り越してホラーになっちまうだよ!彼女の声には、あまりにも真摯な情熱を内包しすぎているのだ。
弱冠15歳にして作詞・作曲全てを手がけたモンスター・デビュ-・アルバム『First Love』(1999年)を今聴きかえしてみると、そのことがよく分かる。てらいのない言葉の選び方には、気恥ずかしささえ覚えてしまうほど。
当時は自由奔放な発言がマスコミに注目されたこともあったが、“宇多田ヒカル”を構成する主要素とは、生真面目すぎるくらいのアチチュードなんではないか。
断っておくが、別に僕はR&Bシンガーとしての宇多田ヒカルを否定している訳ではない。むしろ唯一無二の存在だと思っているくらいである。
ニューヨーク帰りの帰国子女、アーバンな風に吹かれて育った少女は、しかし稀代の演歌歌手・藤圭子のDNAをしっかと受け継いでいたのだ。演歌歌手固有の「コブシ」が、たしかに宇多田ヒカルにはある。
21世紀に現われた天才少女シンガーは、実に日本的なソウルをブラック・コンテポラリーで表現してしまった、脅威のハイブリッドなのである。
たぶんこのコは、普通の女のコの2倍は濃い人生送っているんだろうなあ。一時期ものすごくやつれちゃって、「笑っていいとも』のテレフォンショッキングでも本人の替わりに宇多田パパが出たりして逆の意味で心配してしまったけど、それだけ「ディーバ」という枠を通り越した存在である、ということだ。
まだハタチ前なのに結婚しちゃったヒカルちゃん。グローバル化が進むご時世でも、ドメスティックな志を失わないでおくれよ。
- アーティスト/宇多田ヒカル
- 発売年/1999年
- レーベル/東芝EMI
- Automatic(Album Edit)
- Movin’on without you
- In My Room
- First Love
- 甘いワナ~Paint It,Black
- time will tell
- Never Let Go
- B&C(アルバム・ヴァージョン)
- Another Chance
- Interlude
- Give Me A Reason
- Automatic(Johnny Vicious Remix)
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