始まりも終わりもなく、どこまでも浮遊していくかのようなモード・ジャズの原点
- 『Kind Of Blue』(1959年)は、トータル・セールスで1000万枚を超えている、ジャズ界のモンスター・アルバムである。
- マイルス・デイビスの代表作として揺るがない地位を築いている作品だが、マイルス自身はこのアルバムを「失敗作」と語っている。また、当時研究を重ねていたクラシック音楽からの影響もあると自ら分析している。
- ローリングストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500で、The Velvet Undergroundの『The Velvet Underground & Nico』(1967年)やBeatlesの『Abbey Road』(1969年)といったロックの名盤を上回る、12位にランクインした(1位はBeatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(1967年))。
- コード進行に沿うという最低限のルールに、自由な即興演奏(アドリブ)を順番に行うビバップも、’50年代の終わりに差し掛かると、飽和点に達していた。そこでこの作品では、機能和声のルールに従ったコード進行ではなく、モードと呼ばれる音の配列に従って演奏を行うという、脱構築的な方法論が実践されている。
- コード進行という制限から解放されたモード・ジャズは、その高い自由度ゆえ、逆に並のミュージシャンでは演奏がグダグダになってしまう可能性がある。このアルバムには、ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)、キャノンボール・アダレイ(アルト・サックス)、ビル・エヴァンス(ピアノ)、ウィントン・ケリー(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、ジミー・コブ(ドラム)という当代一流のミュージシャンたちが集められた。
- モードには、コード進行に見られるような、音と音との主従関係は発生しない。よって『Kind Of Blue」は音の中心がハッキリせず、まるで無重力のような、独特の浮遊感をたたえたサウンドが構築されている。
- マイルス・デイビスは、西洋のドレミとは異なる独特の音階を持つ、アフリカの民族楽器カリンバ(親指ピアノ)からモードの着想を得たと公言している。
- ライナーノーツを担当しているのは、セッションに実際に参加したビル・エヴァンス。その中で彼は『Kind Of Blue』を日本の水墨画になぞらえて、「一筆で決まってしまうようなサウンド」と評している。
- クレジット上ではマイルスが全曲を作曲していることになっているが、M-3『Blue In Green』は、実質ビル・エヴァンスの作品である(まあメロディーがおもいっきりビル・エヴァンス風リリシズムなので、丸分かりだが)。
- 1曲目に収録されてるナンバーのタイトル『So What』は、マイルス・デイビスの口癖だったらしい。
- 菊地成孔、大谷能生による800ページにおよぶ大作『M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究』(2008年)では、あえて『『Kind Of Blue』に関しては1行たりとも言及しないという、マイルス研究書として前代未聞の試みを行っている。
- このアルバムをiPodで聴きながら仕事していると、僕は99%の確率で眠くなる。仕事の能率を劇的に下げる効果があるのでご注意あれ。
DATA
- アーティスト/Miles Davis
- 発売年/1959年
- レーベル/Columbia Records
PLAY LIST
- So What
- Freddie Freeloader
- Blue In Green
- All Blues
- Flamenco Sketches
- Flamenco Sketches (Alternate Take)
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