フレンチ・ロリータを従えてレニー・クラヴィッツが緻密に設計した、’60sガール・ポップ
90年代最強のフレンチ・ロリータといえば、ヴァネッサ・パラディをおいて他にはいまい。
『白い婚礼』(1989年)でみせた初々しくも鮮烈なヌード&ネコ科の身のこなしは、世界中の童貞ボーイズを熱狂させた。そしてフレンチ・ロリータとは、エロ・パンク親父セルジュ・ゲンスブールによってアイドル商品化されることと同義である。
パラディもゲンズブールのプロデュースのもと、“悪いことシマショ”的変態アルバム『Variations Sur Le Meme T Aime』(1990年)をリリースし、フランソワーズ・アルディ、ブリジット・バルドー、フランス・ギャル、ジェーン・バーキンという小悪魔の系譜に名を連ねた。
しかし、真の意味で彼女がフレンチ・ロリータとして覚醒したのは、全編英語歌詞でつくられた3rdアルバム『Vanessa Paradis』(1992年)だろう。当時の彼氏であるレニー・クラヴィッツによって設計された精緻なサウンド・プロダクションは、ヴィンテージの匂いが濃厚に漂う、’60sガール・ポップ。
まとわりつくような舌ったらずのロリータ・ヴォイスから、イングリッシュという外国語が発せられた瞬間、非母国語による未完成感と彼女の未成熟感が絶妙なシナジーを生み出し、天衣無縫なポップ・イコンとしての地位を決定的にしたのである。
ブラック・ミュージックをルーツにしたトリートメントが、いかにもレニクラらしいM-1『Natural high』、疾走感のあるバンド・サウンドに、パラディの倦怠感に満ちたヴォーカルが絡み付くM-4『Be My Baby』など捨て曲なしのラインナップだが、個人的には本アルバム唯一のカバー曲である、M-2『Waiting for the man』にトドメを刺す。
もちろんコレ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの言わずもがなの名曲。“放蕩三昧を繰り返しているパリの生意気娘が、ニューヨークで知り合ったカレシに待ちぼうけを食らう”というシチェーションが容易に想像できるのがグー。
片手でスネアのみを連打する布団叩きドラミングと、まとわりつくかのような麻薬的ギターワークが、極上のトリップ感を約束してくれる。
実は彼女、前作の『Variations Sur Le Meme T Aime』でもルー・リードの『Walk on the Wild Side』をカバーしている。倦怠と不条理が渦巻くルー・リードのポスト・パンク・ワールドをパラディの桃色ロリータ・ワールドに吸引してしまうという大胆な企み。
リスナーの僕らは、このアルバムを聴くたびにいつだって微熱モードだ。
- アーティスト/Vanessa Paradis
- 発売年/1992年
- レーベル/Polydor
- Natural high
- Waiting for the man
- Silver and gold
- Be my baby
- Lonely rainbows
- Sunday morning
- Your love has got a handle on my mind
- Future song
- Paradise
- Just as long as you are there
- Lenny Kravitz
最近のコメント