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U.F.O.F./ビッグ・シーフ

『U.F.O.F』──自然と異界が溶け合うドリーミン・フォーク

『U.F.O.F』(2019年)は、ブルックリン出身のインディー・フォーク・バンド、ビッグ・シーフが〈4AD〉から発表した3作目のアルバム。森の奥深くで全曲を一発録りした本作は、自然と超自然が矛盾なく共存する世界を描き出す。Pitchforkで「Best New Music」に選出され、インディー・フォークとドリーム・ポップを融合させた名盤として高い評価を受けた。

出会いと衝撃

僕が初めてビッグ・シーフを知ったのは、確か「NPR Music Tiny Desk Concert」のYoutubeを手当たり次第に漁っていた2020年の夏の時だったか。

「Tiny Desk Concert」は、ラジオ局NPR主催のミニ・ライヴ番組。と言っても、場所は激狭いNPR事務所のなか。ミュージシャンは本棚をバックに、すし詰め状態でパフォーマンス。でも、それがハンドメイド感があって良き。超一流ミュージシャンもたくさん出ているので、興味のある方は要チェックなり。

そんな舞台に現れたビッグ・シーフは、陶酔したように歌うエイドリアン・レンカーのヴォーカルと、肩を揺らしながらギターを爪弾くバック・ミークの姿が強烈に印象に残った。最初はその奇妙さに戸惑ったが、気づけば彼らの音楽が持つ夢幻的な引力に絡め取られていた。

デビューから『U.F.O.F』へ

ブルックリンを拠点にするBig Thiefは、2016年のデビュー作『Masterpiece』で早くもインディー・シーンに存在感を示した。翌年の2作目『Capacity』はPitchforkの「Best New Music」に選出され、フォークの伝統を受け継ぎながらも独自の実験性を織り交ぜるそのサウンドが批評家たちから高く評価される。

そして2019年、バンドはアメリカのインディー・レーベル〈Saddle Creek〉を離れ、イギリスの名門〈4AD〉から『U.F.O.F』を発表する。ここで彼らは、それまでの作品で培ったフォークの親密さを保持しつつ、さらに深い実験性と音響的な冒険を提示したのだった。

「U.F.O.F」というタイトルは「UFO」と「Friend」を掛け合わせた造語。レンカーは「未知の存在と友達になること、それが私の歌のテーマ」と語る。このアルバムには、日常と超自然が矛盾なく共存する世界観が刻まれているのだ。

歌詞にはしばしば自然や宇宙、見えない存在が登場するが、それらは恐怖の対象ではなく、むしろ親密で温かな関係として描かれる。リスナーは「異質なものに寄り添う」という態度を音楽を通じて体感することになる。

制作はワシントン州の森奥深くで行われ、全曲が一発録り。録音の数時間前に書かれた曲も含まれているという。スタジオ的な完璧さよりも、その場でしか生まれない瞬間の呼吸や感情を優先する姿勢は、作品全体に生の親密さと不可思議さを与えている。

楽曲に宿る異界性

アルバム冒頭の「Contact」は、静謐なフォークソングのように始まりながら、終盤で突如として轟音ギターが炸裂する。その暴力的なノイズは、美しい調和の世界にひび割れを入れるようで、聴き手を一気に作品世界へと引きずり込む。

続く「UFOF」は、タイトルそのものが象徴するように、未知の存在を親しい友として描き出す。コクトー・ツインズを思わせる浮遊感のあるサウンドスケープの中で、レンカーの声は人間的な温もりを失わずに響く。ここでは歌詞解釈と音響的体験が一体化しており、異界が決して遠くのものではなく、私たちのすぐ隣にあることを示している。

「Cattails」では、アメリカの大地を思わせる牧歌的な旋律と、自然との一体感を歌うレンカーの声が心地よい。フィールド・レコーディングを思わせる質感と、古き良きフォーク・ソングの伝統が溶け合い、アルバムの中で最も「ナチュラル」な側面を担っている。

また「From」では、親密な歌声が耳元でささやくように響く。極限まで削ぎ落とされたアレンジは、まるで誰かの夢の断片に迷い込んだかのような感覚を与え、聴き手を内面世界へと引き込む。

終盤の「Magic Dealer」は、この作品のもっとも実験的な瞬間だ。幽玄なアルペジオと断片的なノイズが交錯し、聴き手を現実から引き剥がすような響きが広がる。フォークとノイズが調和し、異界の扉を開くかのような体験をもたらすこの曲は、本作の核心を示すものだろう。

レンカーのソロとバンドの関係

この時期、エイドリアン・レンカーはソロ活動も精力的に行っていた。彼女のソロ作品『abysskiss』(2018年)は、より親密で内省的なフォークの世界を描き出しており、『U.F.O.F』の表現と響き合う部分が多い。

つまりビッグ・シーフというバンドの活動と、レンカー個人の探求は相互に作用し合いながら、新しい音楽的地平を切り開いていったのだ。

『U.F.O.F』はPitchforkで「Best New Music」に選ばれたのをはじめ、各国のメディアで絶賛を浴びた。特に「自然と超自然の共存」というテーマ性は、2010年代後半のインディー・フォークが抱えていた実験的な潮流を象徴しているとされた。

〈4AD〉というレーベルからのリリースは、歴史的に革新的なアーティストを輩出してきた系譜にビッグ・シーフが連なることを意味しており、その文化的価値は単なる一枚のアルバム以上の広がりを持っている。

名盤としての理由

『U.F.O.F』は、フォークの繊細な叙情性とエクスペリメンタルな実験精神を併せ持つ稀有な作品である。優美さと暴力性、親密さと異界性といった相反する要素が矛盾なく共存し、聴く者を新しい音楽体験へと導く。

だからこそこのアルバムは、2010年代を代表するインディー・フォークの名盤として、Pitchforkをはじめとする批評家たちに絶賛されただけでなく、リスナーにとっても「耳をそばだてるべき作品」として記憶され続ける。

そして今日も僕は『U.F.O.F』を聴きながら、その調和と不協和の美を確かめ、未知なるものと寄り添う感覚を味わうのだ。

DATA
  • アーティスト/ビッグ・シーフ
  • 発売年/2019年
  • レーベル/4AD
PLAY LIST
  1. Contact
  2. UFOF
  3. Cattails
  4. From
  5. Open Desert
  6. Orange
  7. Century
  8. Strange
  9. Betsy
  10. Terminal Paradise
  11. Jenni
  12. Magic Dealer