トム・ヨークが咆哮する、虚ろなまでのニヒリズム、例えようのない絶望感
『OK Computer』(1997年)の熱狂的な受け入れられ方は、尋常じゃなかった。
3本のギターから奏でられる、シンフォニックで重層的なサウンドは、エレクトロニカ・ミュージックと奇跡的な邂逅を遂げる。
ビートルズが『Sgt.Papper’s Lonely Hearts Club Band』(1967年)でアイドルからアーティストへと覚醒したように、オックスフォードで結成された“孤高のロックバンド”レディオヘッドもまた、『OK Computer』を転機にしてネクスト・レベルへと到達したのである。
蚊が鳴くような声で、西欧的合理主義を批判するトム・ヨークが、カリスマ・アーティストとして神格化され始めたのもこの頃から。
無機質でメタリックな感性と、激情にも似たパッションが同居した、荒涼たる世界。彼の独特の美意識は、このアルバムをもってひとつの完成形を提示したものだと思っていた。
だが、『Kid A』(2000年)を聴いて驚いた。このアルバムには、彼らのネクスト・ネクスト・レベルの音楽が息づいている。彼らの専売特許だったはずの荘厳なギター・シンフォニーは完全に消滅し、代わって電子の音塊に四方を囲まれた自閉的空間が林立している。
エレクトロを大胆にフューチャーするアレンジはもちろん、フリージャズ、音響派といったテイストをも取り込んだ、虚ろなまでのニヒリズム。例えようのない絶望感。
とどまることを知らない彼等の音楽性は、常に先進的でありアバンギャルドであり続ける。プログレッシブ・ロックが“常に先進的な音楽”を指し示した言葉とするなら、今現在その称号は彼等に与えられるべきだろう。
進化という過程をここまで短いスパンで体現できるレディオヘッドは、まさにロック界のダーウィン、いやロック界のガラパゴス諸島だ!!
思えば、村上春樹著『海辺のカフカ』(2002年) の主人公の少年も、この『Kid A』を繰り返し繰り返しウォークマンで聴いていた。トム・ヨークの叫びが虚空に消えていくのを、僕たちは同時代の証言者として黙視していかなければならない。
- アーティスト/Radio Head
- 発売年/2000年
- レーベル/Capitol
- Everything In The Right Place
- Kid A
- National Anthem
- How To Disappear Completely
- Treefingers
- Optimistic
- In Limbo
- Idioteque
- Morning Bell
- Motion Picture Soundtrack
最近のコメント