今日この場所に、愛を。アーティスト宣言を果たしたマーヴィン・ゲイの記念碑的アルバム
先日、ヒューマントラスト渋谷で『メイキング・オブ・モータウン』(2020年)を観た。モータウン創設者のベリー・ゴーディ・ジュニアが盟友スモーキー・ロビンソンとキャッキャしながら、一大レーベルの創世記を語るというドキュメンタリー映画だ。
これを観ると、モータウン独特の制作スタイルがよくわかる。アーティストが自由にクリエイティビティーを発揮するのではなく、各パートがシステマティックに割り振られたチーム制で楽曲が作られているのだ。
リリック・チーム、コンポーザー・チーム、ダンス・チーム…。モータウンは本社を構えるデトロイトの別名「モーター・タウン」に因んだものだが、まるでフォードの工場制手工業のように、名曲が次々と“製造”されていったのだ。
そんなレーベル主導のシステムに異を唱え、自分の想いを表現するために異例のセルフ・プロデュースを敢行したのが、マーヴィン・ゲイ。
ご存知の名曲『What’s Going On』は、ベトナム戦争から帰還した弟の話をヒントにつくりあげた反戦曲だが、ベリー・ゴーディ・ジュニアはこれに難色を示した。社会問題をバリバリに盛り込んだ内容は、これまでのモータウンのヒットの法則に全くそぐわないものだったからだ。
しかし最終的にマーヴィン・ゲイは周囲を説得し、貧困、ドラッグ、戦争といったテーマを盛り込んだコンセプト・アルバム『What’s Going On』を1971年5月にリリース。R&Bアルバム・チャートで9週連続1位という大ヒットを記録した。
Mother, mother
There’s too many of you crying
Brother, brother, brother
There’s far too many of you dying
You know we’ve got to find a way
To bring some loving here today, yeah母よ
たくさんの人が涙を流している
兄弟たちよ
たくさんの人が命を落としている
僕たちは道を見つけなきゃならない
今日この場所に、愛を
いやー何度聴いても名曲ですね、コレ。特にベース!細野晴臣もリスペクトしている伝説のベーシスト、ジェームス・ジェマーソンによる躍動感のあるプレイ(人差し指だけでプレイするのが特徴だったそうな)は、麻薬的な陶酔感に満ちている。
リリースから半世紀近く経った2019年、MVが存在しない過去の名曲を映像化するプロジェクト「Never Made」第一弾として、『What’s Going On』が公開された。
監督のサバナ・リーフは、マーヴィン・ゲイの想いを現代版にアップデートさせて、銃乱射事件、水道水汚染問題、警察の越権行為などを随所に盛り込んでいる。
ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選(2020年度改訂版)には、数々の名盤を押しのけて、『What’s Going On』が1位に選ばれた。
モータウン変革期には保守的だと非難されたベリー・ゴーディ・ジュニアも、今ではこの作品に最高の賛辞を贈っている。今は亡き、モータウンのヒーローに。
今日この場所に、愛を。ピース。
- アーティスト/Marvin Gaye
- 発売年/1971年
- レーベル/Motown
- What’s Going on
- What’s Happening Brother
- Flyin’ High (In the Friendly Sky)
- Save the Children
- God is Love
- Mercy Mercy Me
- Right on
- Wholy Holy
- Inner City Blues
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