2026/4/26

『Are You Gonna Go My Way』(1993)徹底解説|確信犯的ビンテージ・サウンド

『Are You Gonna Go My Way』(1993年/レニー・クラヴィッツ)
楽曲背景と意味を深掘り考察・批評・レビュー

10段階評価
8
GOOD

概要

レニー・クラヴィッツ(Lenny Kravitz)が1993年に発表した3枚目のアルバム『Are You Gonna Go My Way』(1993年)は、彼を世界的なスターへと押し上げた一枚。1960〜70年代のヴィンテージな空気感を90年代の感性で再構築した。自ら多くの楽器を演奏し、アナログ機材にこだわったサウンドは、ジミ・ヘンドリックスを彷彿とさせる豪快なギターリフから、ジョン・レノンに通じる繊細なバラードまで、極めて多彩。タイトル曲の圧倒的なエネルギーはもちろん、精神性の高い「ビリーヴ(Believe)」(1993年)など、ロック、ソウル、サイケデリックが完璧に融合した、時代に左右されない普遍的な名盤である。

受賞歴
  • 1994年ブリット・アワード:最優秀インターナショナル男性アーティスト賞
目次

衝撃的なPVとの出会い

たしか夜中のMTVで初めて観たんだと思うが、マーク・ロマネックが監督したレニー・クラヴィッツ「Are You Gonna Go My Way」のPVは、とにかく衝撃的だった。1990年代初頭、深夜のブラウン管から流れてくる数多の音楽ビデオの中で、あの映像だけが異様なほどの引力と匂いを放っていたのだ。

舞台は円形の小型ドーム。頭上には巨大でディスコティークな円形照明が吊るされ、ピカピカと暴力的なまでの閃光を放っている。そのすり鉢状の壁面には、所狭しと踊り狂うオーディエンスが360度取り囲むように配置され、熱気と酸欠感がないまぜになったような完璧な密室が構築されていた。

その中心で、ドレッドヘアを振り乱し、フライングVを抱えたレニー・クラヴィッツが陶酔しきった表情でギターをかき鳴らし、シャウトしまくる。いやー、とにかく理屈抜きに、ひれ伏すしかないほどカッコ良かった。

そして、このPVの裏の主役とも言えるのが、デカいティアドロップ型のサングラスをかけたシンディ・ブラックマンによる、超絶クールなポーカー・フェイス・ドラミング。

周囲がどれほど狂騒に包まれようとも、一切表情を変えずに正確無比かつパワフルなビートを叩き出す彼女の姿は、レニー・クラヴィッツの野生的な躍動と完璧なコントラストを描く。広角レンズを駆使して空間の歪みを生み出し、密室感と圧迫感を強調したマーク・ロマネックの映像センスが、まさに神懸かって光っていた。

驚くべきはそのサウンドだ。直線的でソリッドなギター・リフと、タイトなドラミング、そしてブリービーで地を這うようなベース・ラインが重ね合わさって、聴く者の細胞を直接揺さぶるような陶酔的グルーヴを作りだしている。こいつはもう、何も考えずに踊るっきゃない!そう思わせるだけの、根源的なロックのダイナミズムがそこにはあった。

深淵なる音楽的IQ

マドンナの『Justify My Love』(1990年)をプロデュースし、官能的でダウナーなトリップ・ホップ的ビートを提供したり、『Let Love Rule』(1989年)、『Mama Said』(1991年)という2枚のソロ・アルバムをリリースするなど、洋楽ファンにはすでにお馴染みの存在だったレニー・クラヴィッツ。

だが、僕は『Are You Gonna Go My Way』のPVで初めて、本当の意味での「ロック・スターとしての彼」と邂逅を果たしたのである。

アルバム全体が素晴らしいのは言うまでもないが、個人的に特に好みなのが、中盤に鎮座するM-5「Just Be A Woman」である。タイトル曲のような縦ノリのハード・ロックではなく、この曲には底知れないサイケデリアと深い精神性が宿っている。

深めにディレイをかけたスネアドラムの響きと、フェイズ・シフターで揺らぎを持たせた幻術的なギター・ワークが相まって、楽曲全体がストレンジでメランコリックなフォルムを露出。

そこに重なるレニー・クラヴィッツのヴォーカルは、泣き叫ぶようなソウルフルなものではなく、どこか諦念と祈りが入り混じったような、極めてパーソナルな響きを持っている。

当時彼は、一部のメディアから「黒いジョン・レノン」などという、半ば揶揄も混じったありがたくないニックネームを頂戴していたようだが、確かにこのナンバーを聴けば、どこかジョン・レノン的な、痛々しいまでの剥き出しの感情とマジカルな輝きに満ちているのがわかるはず。

過去の偉大なサウンドを再構築するだけでなく、そこに自分自身の魂の震えを正確にトレースさせる。その才能は、かつてビートルズを牽引した天才ミュージシャンたちと比肩されるほどに、傑出したものだ。

ただのレトロ・マニアではなく、音楽の歴史そのものを自らの血肉として消化し、全く新しい生命を吹き込む。僕も、彼のこの途方もない音楽的IQの高さと表現力には、ただただ畏敬の念を深く抱くばかりであります。

時代を超越した永遠のロック・アイコン

『Are You Gonna Go My Way』は、レニー・クラヴィッツという一人のミュージシャンが、時代のトレンドという狭い枠組みを完全に突破し、「永遠のロック・アイコン」としての地位を確立した歴史的なモニュメントだ。

アナログの温もりとロックンロールの初期衝動、そしてソウル・ミュージックの官能性が、これほどまでに奇跡的なバランスで配合されたアルバムは、90年代を見渡してもそう多くはない。

彼はこのアルバムで、ただの「センスの良いマルチプレイヤー」から、スタジアムを熱狂させる本物のロックスターへと羽ばたいた。その圧倒的なカリスマ性と、音楽に対する真摯な愛。僕たちは皆、彼の鳴らす自由への疾走のビートに、文字通りついていくしかなかったのだ。

……と、ここまで彼への手放しの賛辞を書き連ねてきたわけだが、僕の心の中には、彼に対するある種の複雑な感情が今も微かに燻っている。

当時、彼がフレンチ・ポップスの妖精、ヴァネッサ・パラディの全編英語アルバム『Vanessa Paradis』(1992年)を全面プロデュースし、あろうことか実生活でも彼女のカレシであることを知ったときの、あの絶望感たるや。

あの完璧な音楽の才能と、彫刻のような肉体、そして溢れ出るセックス・アピール。そこに加えて、僕たちのミューズだったヴァネッサ・パラディまでをも独占してしまうとは。

音楽家としての果てしない畏敬の念と同時に、「レニー・クラヴィッツ、この野郎……!」という男としての激しい憎悪の炎を燃やすようになるのは、僕が彼のアルバムをすり切れるほど聴き込んだ、もう少し後になってからのことですが。才能も恋も、神は彼にすべてを与えすぎたのである。

アルバム情報
プレイリスト
  1. 1. Are You Gonna Go My Way
  2. 2. Believe
  3. 3. Come on and Love Me
  4. 4. Heaven Help
  5. 5. Just Be a Woman
  6. 6. Is There Any Love in Your Heart
  7. 7. Black Girl
  8. 8. My Love
  9. 9. Sugar
  10. 10. Sister
  11. 11. Eleutheria
レニー・クラヴィッツ アルバムレビュー