アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)は、1899年8月13日イギリス・ロンドン生まれの映画監督・プロデューサー。1980年4月29日没。享年80歳。

サイレント時代からキャリアを築き上げ、スリラー映画というジャンルを確立した“サスペンスの神様”であると同時に、20世紀映画における演出美学の革新者である。

『下宿人』(1927年)で連続殺人犯を描いた初期から、“見せる恐怖”を徹底したヒッチコックの演出術はすでに確立されていた。ハリウッド移籍後に発表した『レベッカ』(1940年)でアカデミー作品賞を獲得し、『裏窓』(1954年)『めまい』(1958年)『北北西に進路を取れ』(1959年)『サイコ』(1960年)といった傑作群でその頂点に達する。

彼の映画は、サスペンスを単なる娯楽ではなく“視線と欲望の装置”として扱う点において、心理学的・哲学的な深みを持つ。カメラワーク、編集、主観ショットの構成によって、観客を“覗き見る者=共犯者”へと変えてしまうその構造は、後の映画理論に決定的な影響を与えた。

60年代以降、『鳥』(1963年)や『マーニー』(1964年)で恐怖と性愛の境界を探り、“罪と無意識”をめぐるテーマを深化。『フレンジー』(1972年)では老境にしてなお、残酷なまでに鋭い観察眼とブラックユーモアを見せつけた。

アルフレッド・ヒッチコックは、恐怖の演出家であると同時に、人間心理の探求者であり、映像を用いた“神の視点”の実験者だった。彼が遺した映画群は、スリラーの枠を超え、映画というメディアそのものの構造を暴き出す――それこそが、ヒッチコックが「映画を創造した男」と呼ばれる所以である。