数年前に仲間内で「めいめいがオススメの映画を持ち寄って、それを鑑賞する会」というネクラな集まりがあったんだが、僕が悩みに悩んで選んだのが、ヒッチコックが最も敬愛しているというジョン・バカンの原作を映画化した『三十九夜』だった。
息もつかせぬスピーディーな展開、美男美女のロマンス。以降ヒッチコックの基本スタイルとなる「巻き込まれ型サスペンス映画」 の礎となったのがこの作品といって良ろしかろう。残念ながら鑑賞会では皆の強い支持は得られませんでしたが。
我々同性から見たら鼻持ちならない伊達男と、気の強い上流家庭の一人娘のカップルというのもヒッチコックおなじみのパターン、
しかし、ヒロインのマデリン・キャロルがいわゆるクール・ビューティーではなく、今でいえばメグ・ライアンみたいなキュートさを持ち合わせているのがポイント。古臭いメロドラマにならず、意外にラブコメしちゃっている。
劇場のシーンで幕を開け、劇場のシーンで幕を閉じるサンドイッチ型の構成も面白い。主人公が無意識に吹いてしまう口笛が伏線として効いているのもミソだが、この映画で最も興味深いのはやっぱりミスター・メモリー氏でしょう。
あらゆるトリビアを脳に詰め込み、観客からのあらゆるクエスチョンに即答する彼は、今で言えばさしずめクイズ王のようなものだが、「知っていることは必ず答える」というプロフェッショナル精神がラストでドラマに奥行きを与える。
もはや映画に携わる者のバイブルともいうべき書物『ヒッチコックの映画術』でトリュフォーも語っていたが、彼はまさしく職業意識のために彼は死んでいくんである。ヒッチコックの全フィルモグラフィーの中でも、忘れられないキャラクターの一人だ。
…それにしても原題は『39steps』なのに、どうして邦題では『三十九夜』なんだろう。今に至っても全くの謎である。知っている人がいたらぜひ教えて下さい。マジで。
- 原題/The Thirty-Nine Steps
- 製作年/1935年
- 製作国/イギリス
- 上映時間/83分
- 監督/アルフレッド・ヒッチコック
- 脚本/チャールズ・ベネット
- 製作/マイケル・バルコン
- 原作/ジョン・バッカン
- 音楽/ルイ・レヴィ
- 撮影/バーナード・ノウルズ
- ロバート・ドーナット
- マデリン・キャロル
- ルッチー・マンハイム
- ゴッドフリー・タール
- ペギー・アシュクロフト
- ジョン・ローリー
- ヘレン・ヘイ
- フランク・セリア、ウィリー・ワトソン
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