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グレート・ウォリアーズ/欲望の剣/ポール・ヴァーホーヴェン

『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』──暴力と信仰が交錯する中世の地獄絵図

『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』(原題:Flesh and Blood/1985年)は、暗黒の中世ヨーロッパを舞台に、裏切られた傭兵団が復讐のために城を奪い、王女アグネスを誘拐する物語。権力者の陰謀と欲望に翻弄される男女の運命を描き、戦争と信仰がいかに人間を暴力へ駆り立てるかを浮かび上がらせる。

戦争の祝祭──暴力の始原としての中世

映画評論家・町山智浩氏が『トラウマ映画館』で語るように、映像はしばしば観る者の心に深い爪痕を残す。僕にとってその決定打となったのが、ポール・バーホーベン監督の『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』(1985年)だった。

劇場未公開のまま日本ではビデオスルーで流通し、『炎のグレートコマンド/地獄城の大冒険』という、いかにもB級(Z級?)丸出しな邦題を冠していた。

その内容といえば、全編エログロにまみれた剣戟アクション。暗黒の中世を舞台に、人間存在そのものの獣性をえぐり出す、倫理の欠片もない地獄の寓話だった。

物語は、傭兵マーティン(ルトガー・ハウアー)が雇い主に裏切られ、復讐として城を奪い、王女アグネス(ジェニファー・ジェイソン・リー)を誘拐するところから始まる。

戦の勝利も信義も存在せず、あるのは略奪と強姦、そして権力の恣意。血にまみれた攻城戦の中で、暴力はもはや目的を失い、ただ存在すること自体が祝祭のように描かれる。

バーホーベンが描いたのは、戦争という共同体的儀式の原型──それは正義と悪の区別が消滅する瞬間の映像化だった。

宗教と腐敗──ヒエロニムス・ボス的世界観

この作品の映像構築には、バーホーベンが偏愛する中世宗教画の影響が色濃く見える。とりわけヒエロニムス・ボスの地獄図を想起させる、淫蕩と苦痛が混淆した色彩構成が特徴的だ。

疫病の蔓延する井戸、首吊り死体の傍で交わされるキス、腐敗した聖職者たちの饗宴──宗教的秩序が崩壊した中世ヨーロッパを、神の不在の証として映し出している。

バーホーベンにとって「信仰」とは人間を救済するものではなく、暴力を正当化する装置に過ぎない。聖なるものの裏側には常に性と暴力が潜む。その両義性こそ、彼の映画的美学の核心である。

画面全体を覆う土と血のテクスチャー、絵画的な構図の中に置かれた死体の配置──それらは宗教画を模倣しながらも、神ではなく人間の愚行を照射する。『ロボコップ』や『氷の微笑』に見られる暴力と官能の融合は、すでに本作で完成していた。

しかしこの映画の真のトラウマは、暴力そのものではなく、アグネスという女性の存在にある。誘拐され、陵辱される被害者でありながら、やがてマーティンに惹かれていく。

彼女は捕虜であり、支配者でもある。スティーヴンへの愛を語る一方で、マーティンを挑発するような眼差しを向ける。そこに宿るのは、受動的ヒロイン像の崩壊であり、欲望の主導権を握る女の登場だった。

ジェニファー・ジェイソン・リーが見せる猫科的な肉体と視線の強度は、純粋と堕落の境界を曖昧にし、観客の倫理観を根底から攪乱する。かつて彼女が『初体験/リッジモント・ハイ』で体現したティーンの無垢さはここで完全に転倒し、性が暴力と同義に接続される領域へと突入している。

アグネスの身体は、男たちの戦場とは異なる意味での戦場であり、支配と服従の構造を体現する「もうひとつの中世」だった。

バーホーベンの倫理──地獄の中の人間主義

マーティン率いる傭兵団は、当初「戦友」として描かれるが、その連帯はすぐに瓦解する。金と欲望によって結ばれた絆は、同じ欲望によって崩壊する。

仲間たちは指導者を井戸に突き落とし、ペストまみれの死体のように扱う。その瞬間、映画は暴力の連鎖が自己崩壊に至るメタファーへと変質する。

バーホーベンはこの群衆の裏切りを、戦争映画的カタルシスの否定として描く。そこにあるのは、戦場を共有する者たちの友情ではなく、「生き延びるために他者を利用する」冷徹な生存本能だ。中世という時代設定は単なる装置に過ぎず、描かれているのは現代にも通じる人間社会の縮図──裏切り、支配、暴力の循環である。

戦場の泥と血は、都市のアスファルトと何ら変わらない。『スターシップ・トゥルーパーズ』でバーホーベンが描いた戦争讃美のパロディも、この映画の延長線上に位置している。

『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』は、セックスとバイオレンスに塗れた露悪的作品でありながら、同時に人間存在への異様な誠実さを宿している。バーホーベンは決して暴力を美化しない。むしろそれを、人間が神を失った後に唯一信じられる現実として描く。

暴力は罪ではなく、もはや自然の法則である。そうした冷徹な視座こそが、彼の映画を単なるエロ・グロ・ナンセンスから救っている。宗教的救済も、道徳的報いも存在しない。だがその無秩序の中で、人間はなおも欲望し、裏切り、愛そうとする。そこにこそ、地獄のような世界を生き抜く人間の美学がある。

バーホーベンはこの作品でオランダのアカデミー賞にあたる「黄金の子羊賞」を受賞し、以後ハリウッドで『ロボコップ』『氷の微笑』『ショーガール』といった一連の問題作を生み出すことになる。

『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』はその起点にして、彼の“人間嫌いの人間賛歌”が最も濃密に結晶した映画だった。

DATA
  • 原題/Flesh + Blood
  • 製作年/1985年
  • 製作国/アメリカ、オランダ、スペイン
  • 上映時間/126分
STAFF
  • 監督/ポール・ヴァーホーヴェン
  • 製作/ギス・ヴァースライズ
  • 原案/ジェラード・ソェットマン
  • 脚本/ポール・ヴァーホーヴェン、ジェラード・ソェットマン
  • 撮影/ヤン・デ・ボン
  • 音楽/ベイジル・ポールドゥリス
CAST
  • ルトガー・ハウアー
  • ジェニファー・ジェイソン・リー
  • トム・バーリンソン
  • ジャック・トンプソン
  • フェルナンド・ヒルベック
  • スーザン・ティレル
  • ロナルド・レイシー
  • ブライオン・ジェームズ
  • ジョン・デニス・ジョンストン
  • サイモン・アンドリュー
  • ブルーノ・カービイ