22歳と18歳の天才デュオが奏でる、新時代のフュージョン・サウンド
こりゃ一体何なんだ。
無秩序に暴れまくる超高速ドラムンベースは、エイフェックス・ツインの『Richard D James Album』(1997年)のようだし、コードチェンジしまくるスペーシーなフュージョン感は、リターン・トゥ・フォーエヴァーの『Romantic Warrior』(1997年)のよう。それでいて複雑怪奇なサウンドという訳でもなく、耳触りの良いキャッチーさも兼ね備えている。コントロールされた錯乱、とでもいうべきか。
フランスのメス出身のドミ・ルナ(22歳)と、アメリカのダラス出身JDベック(18歳)によるユニット、ドミ & JD ベックのデビュー・アルバム『NOT TiGHT』(2022年)は、間違いなくポップ・ミュージック・シーンに強烈な一石を投じた。
ドミは、フランス国立高等音楽院を経てバークリー音楽大学に進んだバリバリの音楽エリート。そしてベックも、10歳でドラマーとしての活動を始めたという早熟の天才児。そんな二人がNAMMショーで出会い、エリカ・バドゥのバースデー・パーティで共演(スタートがセレブすぎるだろ!)。
彼らのプレイがSNSでバズり、トントン拍子でアンダーソン・パークが立ち上げた新レーベル「APESHIT Inc.」と契約。デビューアルバムにも関わらず、アンダーソン・パーク、サンダーキャット、マック・デマルコ、ハービー・ハンコックといった豪華メンツが結集した。
本作には、これまでのフュージョンが内包していたスポーティな感覚はない。むしろこのアルバムには、チャイルディッシュな稚気が感じられる。キーボードを買い与えられた子供が鍵盤の上で遊び、ドラムを買い与えられた子供が一心不乱にスネアとキックを叩いているかのような、痛快さがあるのだ。
それでいて、この『NOT TiGHT』にはトータルアルバムとしての見事な計算も感じられる。弦楽器の軽やかな調べが気持ちいいM-1『LOUNA’S iNTRO』から、トイピアノが叙情的なメロディーを奏でる『WHATUP』へとシームレスに繋がり、怒涛の超絶技巧フュージョンが幕を開ける。一転してM-3『SMiLE』ではレイドバックしたチル・サウンドを披露。完璧な流れじゃないですか!!!
フュージョン・サウンドだけに止まらず、アンダーソン・パークが客演したM-10『TAKE A CHANCE』に代表されるような、エレクトリックR&Bも耳に心地いい。
22歳と18歳の天才デュオは、まるでジョーカーとハーレイ・クインのように、もしくはボニーとクライドのように、悪戯心満載でクレイジーな冒険をスタートさせたのである。
- アーティスト/Domi & JD Beck
- 発売年/2022年
- レーベル/ASE Ape Shit Ent
- LOUNA’S iNTRO
- WHATUP
- SMiLE
- BOWLiNG (feat. Thundercat)
- NOT TiGHT
- TWO SHRiMPS (feat. Mac DeMarco)
- U DON’T HAVE TO ROB ME
- MOON (feat. Herbie Hancock)
- DUKE
- TAKE A CHANCE (feat. Anderson .Paak)
- SPACE MOUNTAiN
- PiLOT (feat. Snoop Dogg, Busta Rhymes, Anderson .Paak)
- WHOA (feat. Kurt Rosenwinkel)
- SNiFF
- THANK U
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