昔ニューヨークに留学している時に、『クレイマー、クレイマー』のDVDを観る授業があった。
観賞後に皆でいろいろディスカッションした時、僕は「ビリーをお父さんが面倒みるのか、お母さんが面倒みるのかを、大人たちが法律をタテにして決めるっていうのは、いかがなものか。いっそのことビリーに決めさせたらいーじゃん」と発言した。
そうしたら、オバチャン先生に「そんなハード・デシジョンを子供に強いるのは可哀想だ。You are a cruel person!」と説教された覚えがある。ファーック!!
そしたら他の生徒も「そーだ!そーだ!ルイはヒドい!ルイはヒドい!」っていうノリになって、それ以来というもの、理不尽な理由でこの映画が嫌いになってしまったんだが、改めて見直していると、実に丁寧かつ繊細に作られている逸品。第52回アカデミー作品賞を受賞したのもナットクです。
妻が突然自分探しのために家を出て行ってしまい、それまで仕事漬けだったダスティン・ホフマンが、初めて7歳の息子と向き合うことになり、少しずつ家族愛を取り戻していく。そして後半になると、別れる事になった妻と子供の養育権を巡って争うことになる、とまあそんな話。
冒頭からいきなり、メリル・ストリープを超クローズ・アップで捉えるなど、ロバート・ベントンは俳優の演技に全幅の信頼を寄せた演出ぶり。
息子への惜しみない愛情(=家庭)と、女性としての自立(=社会)が相反する感情として揺れ動く難しいシーンだが、ストリープはニュートラルな表情のなかにも、固い決心をのぞかせる絶妙な芝居をご披露。
ダスティン・ホフマンとメリル・ストリープという、希代の名優を得たアドバンテージを最大活用して、観客のエモーションをかきたてる「ここぞ!」という場面では、必ず俳優の顔を大写しにして、内面との同一化をはかっている。
最初はぎごちなかったフレンチトーストの調理も後半では手際よくなっているとか、朝起きると二人が無言でブレックファーストの用意をしたりして父子の生活が日常化されていることを明示したりとか(フェードイン、フェードアウトで挿話風にカットインしているのが巧い)、細かな作劇術も神経が行き届いていて心憎い。
この映画ではアントニオ・ヴィヴァルディの「マンドリン協奏曲ハ長調」が象徴的に使われているが、これはロバート・ベントンが敬愛してやまないフランソワ・トリュフォー監督の『野性の少年』で使用されていたことに由来するらしい。
『クレイマー、クレイマー』の背景には女性が積極的に社会に進出してきた「ウーマン・リブ」が存在するが、あくまで女性解放運動に話を振り切らず父子の物語にアングルを絞ったのは、やはり少年とのコミュニケーションの物語である『野性の少年』にインスパイアを受けたからだろう。
ちなみに、この映画の撮影中ダスティン・ホフマンはホントに離婚協議の真っ最中だったんだとか。いやー、つくづく役者というのは因果な商売なり。
- 原題/Kramer vs. Kramer
- 製作年/1979年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/105分
- 監督/ロバート・ベントン
- 製作/スタンリー・R・ジャッフェ
- 脚本/ロバート・ベントン
- 撮影/ネストール・アルメンドロス
- 音楽/ヘンリー・パーセル
- 美術/ポール・シルバート
- 編集/ジェリー・グリーンバーグ
- 衣装/ルース・モーリー
- ダスティン・ホフマン
- メリル・ストリープ
- ジャスティン・ヘンリー
- ジェーン・アレキサンダー
- ジョージ・コー
- ジョベス・ウィリアムス
- シェリル・バーンズ
- ハワード・ダフ
- ピーター・ローンズ
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