1930年代のアメリカを舞台に、3人の脱獄囚が繰り広げる珍道中ロードムービー
「構想なんと3000年!」というのが『オー・ブラザー!』(2000年)のキャッチコピーだったんで、一体何のこっちゃと思ってたら、欧米人には古典的教養とも言える、ホメロスの長編叙事詩『オデュッセイア』が原典となっているんだとか。
正直、我々日本人にはそんなもんよく分かりませんが、「盲目の予言者」とか、「美しい歌声で旅人を惑わす遊び女」とか、「魔法の酒の力で動物に姿を変えられてしまう(本編ではカエルだが、原典では豚)」とか、「一つ目の巨人(サイクロプス)と対決する」というモチーフは、すべて『オデュッセイア』に起因しているらしいです。
さらに言うと、タイトルの『O Brother, Where Art Thou?』は、スクリューボール・コメディの巨匠プレストン・スタージェス監督による『サリヴァンの旅』(1941年)から採られているらしい。
黒人ギタリストのトミーが、「悪魔に魂を売り渡した引き換えにテクニックを身につけた」という設定は、当時の著名なギタリスト、ロバート・ジョンソンのエピソードに依拠。アメリカの映画史・音楽史的記憶も、ふんだんに詰まっているのだ。
しかしご安心あれ。そんな予備知識はなくとも、この映画は十二分に面白いこと請け合いである。徹頭徹尾、寓話的エンターテインメント感に満ちた物語は、ひたすらハッピーでひたすらおバカ。
『バートン・フィンク』(1991年)や『ビッグ・リボウスキ』(1998年)でこれでもかというくらいに発揮されていた、コーエン兄弟特有のアッパーでアクの強い演出も(僕はこれが苦手なんですが)、ジャズ、ブルース、カントリーなど怒濤のように繰り出されるゴキゲンなアメリカン・ルーツ・ミュージックによって程よく中和されている。
実際、この映画のサントラは欧米で売れまくった。ずぶぬれボーイズが歌うカントリー・ナンバー『I Am a Man of Constant Sorrow』なんて、サイコーじゃないですか。
ジョージ・クルーニーって、こんなに歌唱力があったのか!と感心してしまったんだが、調べてみると、どうやら実際に録音したのは別人物らしい。それでも、ノリノリで熱唱する彼の表情はこのうえなく微笑ましい。
トリビアルな仕掛けが満載な『オー・ブラザー!』ではあるが、本作に関しては「何だか訳分からなかったけど、とりあえずハッピーな気持ちになる映画だった」というのが絶対的に正しい鑑賞法である。
何てったって、3000年も人類に愛され続けてきた『オデュッセイア』のエッセンスが散りばめられているのだ。
楽しくない訳がない!
- 原題/O Brother, Where Art Thou?
- 製作年/2000年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/106分
- 監督/ジョエル・コーエン
- 製作/イーサン・コーエン
- 脚本/ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
- 撮影/ロジャー・ディーキンス
- 音楽/T=ボーン・バーネット
- 美術/デニス・ガスナー
- 編集/ロデリック・ジェインズ、トリシア・クック
- 共同製作/ジョン・キャメロン
- ジョージ・クルーニー
- ジョン・タトゥーロ
- ティム・ブレイク・ネルソン
- ホリー・ハンター
- ジョン・グッドマン
- チャールズ・ダーニング
- マイケル・バダルーコ
- クリス・トーマス・キン
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