大雑把すぎる演出を、緻密な脚本と役者の熱演でカバーしたパニック・ムービー
ベトナム戦争が泥沼化していた’60年代のアメリカは、映画産業も斜陽の時代を迎えていた。
すでにメディアの主役はテレビが取って代わり、ハリウッドのスター・システムは崩壊。時代は新しいスタイルの映画を求め、やがて『俺たちに明日はない』(1967年)に代表されるアメリカン・ニュー・シネマが台頭するようになる。娯楽第一主義のエンターテインメント・ムービーは駆逐されてしまったのだ。
そんなハリウッド・エンターテインメント仮死状態を打開したのが、後にMaster of Disasterと称される豪腕映画プロデューサー、アーウィン・アレンである。
『宇宙家族ロビンソン』(1965年〜1968年)や『タイムトンネル』(1966年〜1966年)などテレビSF番組を手がけた後、映画界に進出。豪華客船ポセイドン号が転覆する『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)を大ヒットさせ、後の『エアポート』シリーズに代表されるパニック映画ブームの嚆矢となった。
名実共に大プロデューサーとなったアーウィン・アレンが、次なるプロジェクトとして立ち上げたのが、この『タワーリング・インフェルノ』(1974年)。
もともとはワーナー・ブラザーズと20世紀フォックスが、別々に企画していたビル火災をテーマにした映画を、「どうせ同じような話を作るんなら、製作費を折半して合作しちゃったほうが安上がりじゃね?」ってことで共同製作する形に。今でこそメジャー製作会社の合作は珍しくないが、当時は極めて異例の製作体制であった。
ビッグバジェット・ムービーにふさわしく、キャストも豪華絢爛。スティーブ・マックイーンとポール・ニューマンの二大スターをキャスティングした時点でかなりスゴイのだが(クレジットの順番で優劣を決めないように、苦肉の策として、位置と高さをビミョーに変えて2人の名前を同時に出すようにした、という逸話はあまりにも有名)、ウィリアム・ホールデン、フェイ・ダナウェイ、リチャード・チェンバレン、さらにはチンケな詐欺師役でフレッド・アステアまでが出演。あ、あとビルの保安主任役でO・J・シンプソンも出てます。
撮影は『パットン大戦車軍団』(1970年)や『パピヨン』(1973年)で知られるフレッド・J・コーネカンプ、音楽は『スター・ウォーズ』(1977年)や『E.T.』(1982年)でお馴染みのジョン・ウィリアムズ、編集は『西部開拓史』(1962年)と本作で2度アカデミー編集賞に輝いたハロルド・F・クレス。製作スタッフも一流どころが結集し、この時点で映画の成功は約束されたようなものだった。
事実『タワーリング・インフェルノ』は、今やパニック映画の金字塔として不動の地位を築いている。しかし金は出すがクチも出すタイプのアーウィン・アレンは、「アクション部分の演出は俺に任せろ」と一部メガホンをとる始末で、その出来はお世辞にも誉められたものではない。
部屋からもうもうと吹き出す煙はドライアイス丸だしなチープさだし、高層ビルから炎に包まれた人間が落下するパターンを食傷気味なくらい何度も繰り返している。大雑把すぎる演出を、緻密な脚本と役者の熱演で何とかカバーしている、という印象なのだ。
結局アーウィン・アレンは、2,000万ドルの予算をかけた大作『世界崩壊の序曲』が興行収入170万ドルという燦々たる結果を迎えてしまい、映画界から完全に干されてしまうことになる。パニック映画で名を上げた男は、パニック映画で己の首を絞めることになってしまったのだ。
《補足》
超高層タワーを建造するにあたり、当初の計画書を無視して予算削減のため低品質な電線を使ったがために、引火して大火災を引き起こす、というのがこの映画のアウトラインなんだが、これって2005年に日本で起きた耐震偽装事件を思い出させますね。
人命に関わるセキュリティー確保よりも予算削減のプライオイティーが高いっていう話は、いつの時代も不変のようである。
- 原題/The Towering Inferno
- 製作年/1974年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/165分
- 監督/ジョン・ギラーミン
- 製作/アーウィン・アレン
- 原作/トーマス・N・スコーシア、フランク・M・ロビンソン、リチャード・マーティン・スターン
- 脚本/スターリング・シリファント
- 撮影/フレッド・コーネカンプ、ジョセフ・バイロック
- 特撮/L・B・アボット
- 音楽/ジョン・ウィリアムズ
- スティーヴ・マックィーン
- ポール・ニューマン
- ウィリアム・ホールデン
- フェイ・ダナウェイ
- フレッド・アステア
- O・J・シンプソン
- リチャード・チェンバレン
- スーザン・ブレイクリー
- ロバート・ヴォーン
- ロバート・ワグナー
- ジェニファー・ジョーンズ
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