ゾンビ1万体の三角ピラミッド祭り!ブラピ主演のゾンビ入門編
映画の内容云々よりも、「ゾンビ映画であることをひた隠しにする、宣伝のやり方ってどーなのよ!」という、メディア戦略に異を唱える論調が多く見受けられる『ワールド・ウォーZ』(2013年)。
「ゾンビ映画」=「ゴア描写」=「マニアな観客しか来ない!」という事態を恐れた結果なんだろうが、まあその心情も分かります。でもこの映画、ゾンビが人肉を喰らうようなスプラッター描写は皆無。アウトラインとしては、『アウトブレイク』に近似したパニック・ムービーである。
そもそも低予算で製作可能なゾンビ映画は、B級映画の代名詞。その記念碑的作品といえる、ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)は、わずか製作費11万4000ドルだった。
しかし『ワールド・ウォーZ』は、天下のブラッド・ピットが製作・主演を務める超大作であるからして、予算もゾンビ映画史上例をみない1億5000万ドル!トンデモなく規格外のスケールなんである。
しかしながら、巷間で取りざたされる噂によれば、その製作は混迷を極めたらしい。レオナルド・ディカプリオの製作会社「アッピアン・ウェイ」との入札競争に勝ち、ブラッド・ピット率いる「プランBエンターテインメント」が、マックス・ブルックス(あのメル・ブルックスの息子です)の小説『WORLD WAR Z』の映画化権を獲得するまでは良かったが、そこからが悪夢の始まり。
監督と脚本家が対立するわ、シナリオライターが何度も交替するわ、クライマックスに予定されていた「ロシアでのゾンビ大虐殺祭り」がゴアすぎてまるまるカット。撮影終了後も脚本が書き直されて再撮が入るなど、現場は混乱を極めた。
ブダペストでの撮影時には、「本物の銃が、撮影の小道具として使われている」という報告を受けたハンガリーの対テロ部隊によって、ロケ隊が強制捜査されたという事件も起こっている。
紆余曲折を経て完成に至った『ワールド・ウォーZ』だが、結論からいうと出来は悪くない。カネにモノをいわせて、圧倒的数量のゾンビが押し寄せるというビジュアルは大迫力。何百、何千、いや何万という単位のゾンビが、文字通り“雪崩打つように”迫ってくるのだ。
特に、イスラエルに実在する数百キロに渡る分離壁を、ゾンビが人垣ならぬゾンビ垣(!)を組んで乗り越えるというシーンは、凄すぎ。
このゾンビを動かすプログラムには、「Alice」と呼ばれるモブ・シミュレーション・プログラムが活用されているらしいが、一種のAI技術によって、ゾンビが独自に動き回るのだ。マジでハンパない映像的強度!ゾンビ1万体の三角ピラミッド祭りだ、ヤッホー!
しかし、冒頭のフィラディルフィアとイスラエルのシークエンス以外は、打って変わって映像的にはかなり地味。前述の「ロシアでのゾンビ大虐殺祭り」カット事件を受けて、急遽追加撮影されたクライマックスのアイルランドのシークエンスなんぞ、ほとんど『バイオハザード』的な箱庭展開。
てっきり物語で重要な役割を果たすと思われていたウイルス学者のアンドリュー(イライアス・ゲイベル)が、「ゾンビの急襲にパニくって、暴発事故で即死!」というバカ展開には目を疑うし、勾留中の元CIAエージェント(デヴィッド・モース)の語る真実に、ブラピがあっさりと信用する展開も納得できず。
とはいえ、僕のような“ゾンビ映画弱者”には格好の入門編であることも間違いなし。イスラエルの女性兵士セガンちゃん(ダニエラ・ケルテス)が、隠れ萌えキャラなのも捨てがたい魅力なり。
- 原題/World War Z
- 製作年/2013年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/116分
- 監督/マーク・フォースター
- 製作/ブラッド・ピット 、デデ・ガードナー 、ジェレミー・クライナー、イアン・ブライス
- 原作/マックス・ブルックス
- 脚本/マシュー・マイケル・カーナハン、ドリュー・ゴダード、デイモン・リンデロフ
- 撮影/ベン・セレシン
- プロダクションデザイン/ナイジェル・フェルプス
- 衣装/マイェス・C・ルベオ
- 編集/ロジャー・バートン、マット・チェーゼ
- 音楽/マルコ・ベルトラミブ
- ブラッド・ピット
- ミレイユ・イーノス
- ジェームズ・バッジ・デール
- ダニエラ・ケルテス
- デヴィッド・モース
- ルディ・ボーケン
- ファナ・モコエナ
- アビゲイル・ハーグローヴ
- スターリング・ジェリンズ
- ファブリツィオ・ザカリー・グイド
- マシュー・フォックス
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