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11/UA

“肉体”と“音”の二重性を体現するディーヴァ

90年代都市型音楽のエッセンスを凝縮したトラック

UAは、狂おしいほどに「オンナ」である。だがその「オンナ」とは、男性的な欲望を惹きつける性的身体ではなく、生命を育み、受け止める母性的身体だ。彼女の歌は、エロスを超えて母胎性へと回帰する。だからこそ、聴き手はその声に「抱かれる」ような感覚を覚えるのである。

学生時代にジャニス・ジョップリンやアレサ・フランクリンなどの影響を受け、ソウルボーカリストになることを決意した彼女の、威風堂々たるデビューアルバムが『11』(1996年)。モンド・グロッソの大沢伸一、朝本浩文、青柳拓次(LITTLE CREATURES)、竹村延和、cobaといった精鋭が参加した豪華盤だった。

彼らが構築したのは、ソウル、R&B、ダブ、ドラムンベースなど、90年代都市型音楽のエッセンスを凝縮したトラックたち。しかし最終的に耳に残るのは、磨き上げられた音ではなく、それを凌駕するUAの「野生」だった。

オープニング・ナンバー「11」では、低音のうねりとバックビートがリスナーを圧倒する。そこにUAのヴォーカルが乗ると、彼女の24歳とは思えないほど成熟した声質が、都市の空気を“母胎の湿度”へと変質させる。まさに和製R&Bの中でエポックメイキングな瞬間であった。

UAはどんなジャンルのトラックも「UA色」に変えてしまう。ソウルやジャズの伝統に根ざしつつ、ドラムンベースやエレクトロの冷たい質感をも吸収する。その声は、アーバンな軽さを「重く」し、抽象的な響きを「血肉あるもの」へと変換する。つまり彼女自身が“ろ過器”であり、音楽はUAを通過することで初めて「命」を宿す。

母性的な無垢、凶暴な野生

UAの身体性は決してグラマラスなセクシャリティではない。むしろ、ぽっちゃりとした腹部や、母性的な佇まいが、彼女の歌の根幹を成している。『水の女』(2002年)のヌードも、欲望の対象ではなく、生命の象徴として提示される。その意味でUAは、単なる歌手ではなく「母性を歌う身体」としての存在なのだ。

「UA」という名前がスワヒリ語で「花」と「殺す」という二つの意味を持つのは象徴的だ。Beauty & Violence。その二重性こそが、彼女の音楽の本質だろう。『ドレミノテレビ』で「ううあ」として幼児番組に出演した姿は、その“母性的な無垢”の部分を強調した一面に過ぎない。だがその裏には常に、凶暴な野生が息づいている。

UAは「歌う身体」である。彼女の声はジャンルを超えて変質し、母性的な包容力と凶暴な野生を同時に体現する。その存在は、日本のポップスにおいて稀有な“アンビバレントな光”を放ち続けるディーヴァであり続けている。

DATA
  • アーティスト/UA
  • 発売年/1996年
  • レーベル/ビクターエンタテインメント
PLAY LIST
  1. リズム
  2. 大きな木に甘えて
  3. 落ちた星
  4. バラ色
  5. ゼリー
  6. ヒマワリ
  7. 雲がちぎれる時
  8. 情熱(キング・ワダダ・ダブ)
  9. 紅い花
  10. 水色
  11. ランデブー