『3rd-LOVEパラダイス-』(2000年/モーニング娘。)
楽曲背景と意味を深掘り考察・批評・レビュー
『3rd-LOVEパラダイス-』(2000年)は、モーニング娘。が社会的現象を巻き起こし、アイドルという枠組みを超えて日本のポップ・ミュージックを再定義したアルバム。つんく♂による確信犯的なディスコ、ファンク、歌謡曲のミクスチャーは、本作において一つの完成形を見せており、国民的な支持を得た「LOVEマシーン(1999年)」や「恋のダンスサイト(2000年)」といったビッグ・ヒットを核に据えた、極めて強固な音楽性を提示している。また、石黒彩の卒業直前にリリースされたという背景も、本作に一瞬の煌めきのような切なさと熱量を与えている。
- 第15回日本ゴールドディスク大賞:ポップ・アルバム・オブ・ザ・イヤー
- 2001年ミュージック・マガジン:年間ベスト・アルバム 歌謡曲/ポップス[日本]部門 第1位
音楽的アプローチを超えた「萌え」
モーニング娘。という巨大な現象を、純粋な音楽的アプローチのみで語り尽くすことは、もはや不可能に近い。
アニメフリークにも訴えかける強烈な「萌え要素」を、これほどまでに内包し、体現してみせたアーティストはかつて存在しなかった(その象徴的な極北に位置し、この要素を最も色濃く内包していたのが加護亜依だったことは論を俟たないだろう)。
2000年代初頭、テキストサイト全盛期のインターネット空間において、モーニング娘。というキーワードは常に検索エンジンの上位を独占していた。
オタク的な熱量を帯びた文章のなかで日夜熱狂的に論じられていたのは、吉澤ひとみの際立った美男子(イケメン)ぶりだったり、石川梨華が徹頭徹尾貫いてみせた“チャーミー”としてのブリっ子ぶりだったりした。
プロデューサーであるつんく♂がJ-POPシーンに仕掛けたこの重層的なトリックは、純粋な音楽ファンのみならず、黎明期のネットカルチャーを享受する若年層をも丸ごと飲み込む、空前の一大ムーブメントとなったのである。
『LOVEマシーン』の衝撃と、抗いがたい快楽主義
メンバーの卒業と新規加入という新陳代謝を繰り返しながら、まるでひとつの生き物のように日々成長していく彼女たち。その決定的な転機となったのは、後藤真希という規格外の才能が加入してリリースされた歴史的シングル『LOVEマシーン』(1999年)である。
それまでどこか野暮ったさを残したマイナー調の歌謡曲路線を歩んできた彼女たちは、この曲で突然、眩いほどにファンキーで派手なサウンドへと劇的なシフトチェンジを遂げた。
「日本の未来は WOW WOW WOW WOW」という、圧倒的に底抜けでノーテンキな歌詞世界。そして、ダンス☆マンの編曲による1970年代テイストのポジティヴなディスコ・チューンは、就職氷河期と長引く不況の真っ只中で沈み込んでいた日本社会を激しく震撼させた。
続く『恋のダンスサイト』(2000年)が、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)のオマージュだろうがパクリだろうが、そんな音楽的な重箱の隅をつつくような議論はまったくもってどうでもいいことなのだ。
僕たちはただ何も考えず、センターに立つ後藤真希の圧倒的なダンスに悩殺され、矢口真里の放つ「セクシービーム」の前に理屈抜きに昇天すればいい。その有無を言わさぬ快楽主義と圧倒的な肯定力こそが、当時の彼女たちが持っていた最強の武器なのである。
未完成から這い上がるサクセス・ストーリー
オーディション番組『ASAYAN』から誕生し、泥臭い手売りから一躍国民的スーパーアイドルグループへと駆け上がるまでの全プロセスを、僕たちはブラウン管を通して生々しく見届けてきた。彼女たちがチャートの頂点に登りつめてもなお、つんく♂の懐には常に新たな秘策が用意されていた。
タンポポやプッチモニといった派生ユニットの展開。それはかつて、人気ゲームソフトに売れないソフトを抱き合わせて販売したゲームショップの商法をどこか彷彿とさせる、したたかなバラ売り戦略でもあった。さすがは大阪生まれの商魂逞しさと言うべきだろう。
そして、グループの物語をさらに駆動させたのが、新たに加入した第5期メンバーたちの存在である。とりわけ目を引いたのが、紺野あさ美だった。
加入当初、お世辞にも完成された美少女とは言い難く、歌もダンスも他のメンバーからは大きく遅れをとっていた彼女。しかし、だからこそ彼女は何の因果かモーニング娘。の一員となり、周囲に追いつこうと必死に汗を流す運命を背負ったのだ。
不器用な彼女が血のにじむような努力で這い上がっていくその姿は、まるで大映ドラマ『スチュワーデス物語』(1983年)において、「ドジでノロマな亀」と自嘲したヒロイン・堀ちえみが見せた泥臭いサクセス・ストーリーの完全な再現である。
完成されたスキルを見せるのではなく、未完成の少女が成長していく過程そのものを感動的なエンターテインメントとして提示する。もはやモーニング娘。のドラマは、新たな章の扉を開いていた。
J-POPという巨大なフィールドを舞台に、つんく♂は筋書きのない高視聴率の連続ドラマを、今この瞬間もしたたかに演出し続けているのである。
参考文献・出典
- アーティスト/モーニング娘。
- 発売年/2000
- レーベル/ゼティマ、アップフロントワークス
- ジャンル/J-POP
- プロデューサー/つんく♂
- 1. ~おはよう~
- 2. LOVEマシーン
- 3. 愛車 ローンで
- 4. くちづけのその後
- 5. 恋のダンスサイト
- 6. ランチタイム~レバニラ炒め~
- 7. DANCEするのだ!
- 8. おもいで
- 9. 原宿6:00集合
- 10. WHY
- 11. 「,,, 好きだよ!」
- 12. ~おやすみ~
- 3rd-LOVEパラダイス-(2000年)
![3rd-LOVEパラダイス/モーニング娘。[CD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/88c6a07192104a0614629feb50715bba193a2650.jpg)