音符の上を軽やかに跳ね、遊び心に満ち溢れた極上ポップス
会社の同僚M氏が、「矢野顕子が好きならこれも好きなはずですよ」と勧めてくれたのが、クラムボンだった。
クラムボンというかなり珍妙な名前は、宮沢賢治の小説に出てくるキャラクターが由来らしい。聴いてみてまずビックリしたのが、原田郁子のヴォーカル。”あ”行から”わ”行まで、全部”は”行を発音しているかのように「抜けている」。この「抜け」が尋常なくいい感じ。
写真で拝見するかぎり原田郁子嬢は座敷童のようなご面相であるが、このエンジェルボイスなら家に棲みつかれても問題なし。朝は彼女の生「小さな二人のかくれんぼ」で目覚めたいもんだ。
NHK『みんなのうた』で流れていそうな牧歌的まったり系サウンドではあるが、たとえば名曲『サラウンド』におけるサビのダイナミズムは、高速度で駆け抜けるスピード感を感じさせる。そのスピード感も、ママチャリで下り坂を駆け抜けるくらいの速度だったりして、実に気持ちいい。
ピアノ、ドラム、ベースという変則スリーピースバンドによる極上ポップスは、音符の上を軽やかに跳ね、遊び心に満ちている。ギターのエッジがない替わりにディスト-ションやフランジャーをかけまくって、どこか地に足がついていない夢心地な感じの音に仕上げているのも楽しい。
原田郁子のリリックも、ひたすら可愛くてひたすら易しい。小学校低学年クラスのボキャブラリーで歌詞を成立させてしまうのは、シンプルな言葉に宿る強さを知っているからだ。ふだん何気なく使っている言霊が、生命を得てキラキラ輝く。聴いている僕らも思わず口ずさむ。
椎名林檎率いる東京事変のメンバーとしても活動中の、亀田誠治を共同プロデューサーとして迎えた3rdアルバム『ドラマチック』(2001年)は、スリーピースのこじんまりとした佇まいのなかにも、ストリングスなんかをバンバンフィーチャーしてスケール感を感じさせる、文字通り“ドラマチック”な作品だ。
個人的には『恋わずらい』がベストチューンです。
- アーティスト/クラムボン
- 発売年/2001年
- レーベル/ワーナーミュージック・ジャパン
- ロマンチック
- ジョージ
- サラウンド
- 心象21
- レインボウ
- 恋わずらい
- 残暑
- モノクローム
- 便箋歌
- ララバイ サラバイ
- ドラマチック
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