武満徹が紡ぐ、甘くセンチメンタルなメロディー
武満徹がこれまでに手がけてきたポピュラー・ミュージックを、新しいアレンジで石川セリが歌うという、かなり野心的な企画アルバム。
若い方には石川セリって言っても誰のことか分からないでしょうが、映画『八月の濡れた砂』(1971年)の主題歌なんかを歌っていたシンガーで、井上陽水の奥さんでもあります。
名前のとおりハーフの方で、エキゾチックな顔立ちがちょっと鰐淵晴子に似てますな(ナニ?鰐淵晴子も知らない?西田敏行が金田一耕助を演じた怪作『悪魔が来りて笛を吹く』(1979年)を今すぐチェックしろ!)。
そもそも発端は、音楽プロデューサーの川口義晴氏が、映画のための音楽を紹介するラジオ番組で武満が作曲した作品に魅了され、「歌のアルバムを作りたい」と提案したことに始まる。
コムズカシイ現代音楽の巨匠として知られる武満だが、そもそもシャンソンを聴いて作曲家を目指したというエピソードがあるぐらいなので、甘くセンチメンタルなメロディーも守備範囲なのだ。
武満はライナーノーツのなかで、
編曲者の方々の今日的感覚が、それぞれの特徴を活かして、面白いものに仕上げてくださった
と謝辞を述べているが、服部隆之、羽田健太郎、佐藤允彦、コシミハルといった面々が、それぞれ独創的なセンスで原曲に新しい生命を宿らせている。
特にコシミハルは、キーボードを駆使したお得意のヨーロピアン・ポップの世界に武満サウンドを昇華させ、摩訶不思議で幻想的な音像を作り出している。
もともと僕がこのアルバムを購入したのは、『筑紫哲也のニュース23』のエンデング・テーマに起用されていたM-5『翼』が好きだったからだが、結局のところ僕がこのアルバムで繰り返し聴くのは、コシミハルがアレンジを手がけたナンバーばっかりだったりする。
10曲目に収められている『恋のかくれんぼ』なんぞ、石川セリのアンニュイなヴォーカル、谷川俊太郎のリリックとが奇跡的なケミストリーを起こした大傑作だと確信してます。
- アーティスト/石川セリ
- 発売年/1995年
- レーベル/コロムビアミュージックエンタテインメント
- 小さな空
- 島へ
- 明日ハ晴レカナ曇リカナ
- 三月のうた
- 翼
- めぐり逢い
- 死んだ男の残したものは
- うたうだけ
- ○と△の歌
- 恋のかくれんぼ
- ワルツ「他人の顔」より
- 雪
- 見えないこども
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