混濁としたワールド・ミュージックを洗練にまとめあげてしまう、教授の手腕
坂本龍一のオリジナルとしては8枚目に当たる『Beauty』(1990年)は、 ヴァージンレコード移籍第1弾。前作『NEO GEO』(1987年)で提示した音楽的グローバリゼーションを、さらに推し進めたアルバムといえる。
アジア、沖縄、ブラジル、アフリカなどに代表される混濁としたワールド・ミュージックを、あまりヴィヴィッドな肉体性を感じさせず、多分にアートフィティシャルな洗練にまとめあげてしまうのは、教授のヨーロッパ音楽的センスがなせる技か。
沖縄民謡の『安里屋ユンタ』、ローリング・ストーンズの『WE LOVE YOU』(1967年)、フォスターの『金髪のジェニー』(1854年)に沖縄語の歌詞をのせた『ROMANCE』、沖縄民謡の『ちんさぐの花』、サミュエル・バーバーの『管弦四重奏作品11番』を坂本流にアレンジした『ADAGIO』。
収録曲の約半分がカヴァー曲という事実からも、土着的なエキゾチズムを己の資質で解体して、再構築するという意図があったものと推察する。
『安里屋ユンタ』は細野晴臣のアルバム『はらいそ』(1978年)でカバーしているが、自分にとってのはらいそ(パラダイス)に内向する細野バージョンは、南国的エキゾチズムへの憧憬が「ハレ」として結実し、とことんピーフスルなサウンドに仕上がっていた。
一方の坂本バージョンは、耽美なピアノが全体をメタリックな質感に均一化し、ユッスー・ンドゥールの神のごとき聖性を帯びたヴォーカルが響き渡る、ポスト・ワールド・ミュージックともいうべき仕上がり。
両者の指向性の違いが如実に表れている。恍惚とした表情を浮かべる教授の裸身がジャケ写で、タイトルが『Beauty』とくれば、アンタどんだけナルシストなんだという気もしてくるが、そこはご愛嬌。
ブライアン・ウィルソン(ビーチボーイズ)、ロビー・ロバートソン(ザ・バンド)、ロバート・ワイアット(ソフト・マシーン)、ユッスー・ンドゥール、アート・リンゼイといった超豪華ゲスト・ミュージシャンを迎えて製作された本アルバムは、まさにサカモト的審美眼、サカモト的センスが結実している。
- アーティスト/坂本龍一
- 発売年/1990年
- レーベル/ヴァージン・ジャパン
- You Do Me [Edited Version]
- Calling from Tokyo
- Rose Music
- Asadoya Yunta
- Futique
- Amore
- We Love You [Remix]
- Diabaram
- Pile of Time
- Romance
- Chinsagu No Hana
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