線香花火のように強烈な閃光を放つ、“ニューノスタルジック”
年末年始に雨あられと発表される音楽系年間ランキングのなかで、僕が最も信頼を置いているのはもちろん“今、最高にキテるポップ・ミュージックを発見するには最適の音楽サイト”「ザ・サイン・マガジン・ドットコム」だ。
2019年はラナ・デル・レイの『Norman Fucking Rockwell!』、2020年はボブ・ディランの『Rough and Rowdy Ways』といった大物が年間ベストアルバム1位に名を連ねる中で、2021年の映えある1位に輝いたのは、ピンクパンサレスのデビュー・ミックステープ『to hell with it』だった。
ほとんどのトラックが1分台、全10曲入りながらトータル・タイムは18分。17歳の時にGarageBandで音楽を作り始め、TikTokでデビューを果たしたピンクパンサレスが紡ぐ楽曲たちは、線香花火のように強烈な閃光を放ち、余韻を残すことなく消え去っていく。
アダムFが1995年に発表した『Circles』をサンプリングしたことがあることでも明らかなように、変則的なリズム&重量感のあるビートは、ドラムンベースを意識している。90sリバイバルなサウンドは、本人曰く“ニューノスタルジック”。ピンクパンサレスは、新時代の2ステップ、新時代のUKガラージを復権させようとしているのだ。
だがこのミックステープは、決してフロア仕様に非らず。前のめりなマッシヴ・ビートがヘッドフォンを満たすにも関わらず、手触りはどこまでも密室的で内省的。ピンクパンサレスも己の心情を高らかに歌い上げるわけでもなく、ただ切々と、淡々と、語りかける。
曰く、
「I never wanted to cast doubt in your mind あなたの心を疑うようなことはしたくなかった」(M-2『I must apologise』)
「It makes me so angry, all I do is grit my teeth I still let this man take over me 腹が立って仕方がない、歯を食いしばるしかない。まだこの男に支配されている」(M-3『Last valentines』)
「I called my dad, he told me there’s no room for me Down at the house that we had when we were living as a three 父に電話したら、帰る場所はないと言われた。3人で住んでた頃の家に戻っても、家族はもういない」(M-4『Passion』)
きっと『to hell with it』は、ノリノリのパーティでDJが皿を回すレコードなのではなく、ベッドルームでランプを灯しながら、そのドリーミーなサウンドに身を浸すべき一枚なのだろう。
『to hell with it』には、わずか18分のあいだにミレニアル世代のリアルが素描されている。
- アーティスト/PinkPantheress
- 発売年/2021年
- レーベル/Elektra Records/Parlophone Records
- Pain
- I must apologise
- Last valentines
- Passion
- Just for me
- Noticed I cried
- Reason
- All my friends know
- Nineteen
- Break It Off
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