人肌程度の温かさを感じさせる、ハート・ウォーミングなフォークトロニカ
アイスランドなんぞ、左遷させられて行くような国だと思っていたが、とんでもない。グリーンランドの南東方に位置するこの小国は、幻想的なサウンドをクリエイトするアーティストを多数輩出している「音楽の宝庫」なのだ。
ビョーク、シガー・ロス、ヨハン・ヨハンソン…。ポストロックの文脈で語られる彼らが紡ぎだすのは、地表の約10%が氷河に覆われるという土地柄を彷彿とさせる、孤高かつ荘厳な音楽。まるで世界には自分たちしか存在しないと思わせるような、屹立した世界がそこにある。
だがレイキャビク出身の4人組ユニット、ムームが奏でるのは人肌程度の温かさを感じさせる、ハート・ウォーミングなフォークトロニカだ。
ヴァイオリン、オルガン、チェロ、アコーディオンといった生楽器の音色が、デジタルに刻まれるビートと優しく共振し、牧歌的ともいえる風景を呼び起こす。それはまるで、子供の頃に夢中になって読んでいた絵本の世界。
オルヴァル・スマラソン、グンネル・ティーネス、双子姉妹のギーザ・アンナ&クリスティン・アンナによって結成されたムームは、もともと子供のための演劇を通じて出会ったユニット。
ちなみにギーザ・アンナとクリスティン・アンナは、ベル&セバスチャンの『Fold Your Hands Child, You Walk Like a Peasant』(2000年)のジャケットを飾っていることでも有名だ。チャイルディッシュなトイポップ的世界観は、そのような素養があったからこそなのかもしれない。
筆者が特に愛聴しているのが、2ndアルバムの『Finally We Are No One』(2002年)である。ギーザとクリスティンがあどけない声で、M-7『Now There’s That Fear Again』をささやくとき、夜の帳が静かに舞い降りて、燭台にオレンジ色の小さな炎を灯す。僕たちはただ静かに、ベッドの上で幻想的な世界に身を浸らせながら、ホットココアをすすりつつ絵本のページを捲る。
『Finally We Are No One』を聴く時の、これが絶対的に正しい処方である。
- アーティスト/Mum
- 発売年/2002年
- レーベル/Fat Cat
- Sleep/Swim
- Green Grass Of Tunnel
- We Have A Map Of The Plane
- Don’t Be Afraid, You Have Just Got Your Eyes Closed
- Behind Two Hills.A Swimmingpool
- K/Half Noise
- Now There’s That Fear Again
- Farawat Swimmingpool
- I Can’t Feel My Hand Anymore, It’s Alright, Sleep Tight
- Finally We Are No One
- The Land Between Solar Systems
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