Shipbuilding/冨田ラボ

SHIPBUILDING

あらゆるグッド・ミュージックをバカラック風モダン・ミュージックとしてアウトップトしてしまう、抜群のセンス

冨田恵一が紡ぐサウンドには、ラグジュアリーなゴージャス感がある。といっても、金粉をこれでもかとふりかけたような、悪趣味な音楽という意味じゃないよ。それは一流の職人によって丁寧に編み上げられた、ウェルメイドでハイ・クオリティーな和製ポップス。

複雑なハーモニーも、テクニカルなリズム・セクションも、ひとたび彼の手にかかってしまえば、玄人好みするアバン・ポップに振り切らない、不特定大多数に受け入れられる高品質サウンドに加工されるのだ。

MISIA、中島美嘉、SMAP、平井堅、Crystal Kayなどのアーティストを手掛けてきた当代一流のサウンドプロデューサーである彼が、今回満を持して立ち上げたセルフ・プロジェクトが“冨田ラボ”。

Super Best Records: 15th Celebration by Misia (2013-06-18)
『Super Best Records: 15th Celebration by Misia (2013-06-18)』(MISIA)

デビューアルバムとなる『Shipbuilding』(2003年)には、松任谷由実、永積タカシ、畠山美由紀、キリンジ、Saigenji、birdといった多士済々なゲストヴォーカルを迎え、軽妙洒脱な冨田ワールドを全開。イントロからアウトロまで、とにかく気持ちのいいアルバムなんである。

「ゲストヴォーカルが詩も書く」というお約束のうえでアルバムを製作したのは、あくまで歌い手の個性を活かしたサウンド・メイキングを敢行したいという、冨田のプロデューサー的発想か。

スウィンギンなピアノとリズム・セクションが痛快なM-2『God Bless You!(feat. 松任谷由実)』、細かいところまで神経の行き届いた、精緻なサウンドプロダクションが光るM-6『香りと影(feat. キリンジ)』、ソウフルフルなミディアム・バラードのM-9『道(feat. bird)』など、いずれも佳曲揃いだが、個人的にはやっぱりM-3『眠りの森(feat. 永積タカシ)』にトドメを刺す。

このトラックは、永積タカシがツアー中で多忙を極めたため、例外的に松本隆が作詞を担当しているナンバー。タイトル通り夢の中に誘われるかのような、ドリーミーなリリックとアレンジメントが秀逸だ。

永積タカシの、クセのない伸びやかな高音ヴォーカルに、男である小生も思わずウットリ。豪奢なオーケストレーションの間をぬって響き渡る、フルートの音色もチャーミングでいいですね。

やっぱり冨田恵一は、山下達郎や大貫妙子や吉田美奈子といったポップメイカーの系譜を継いだ、70年代シティ・ポップの正統な継承者だと思う。

フュージョン、ソウル、ジャズ、あらゆるグッド・ミュージックを集積して、渋谷系的なDJプレイ・引用に走るのではなく、バカラック風モダン・ミュージックとしてアウトップトしてしまう、その抜群のセンス。

冨田ラボを“ハンドメイド音楽工房”と呼んでいるのも、その表れなんではないか。

DATA
  • アーティスト/冨田ラボ
  • 発売年/2003年
  • レーベル/東芝EMI
PLAY LIST
  1. Welcome
  2. God bless you!
  3. 眠りの森
  4. 耐え難くも甘い季節
  5. shipbuilding
  6. 香りと影
  7. Shipyard(edition1)
  8. 太陽の顔
  9. Mizzenmast(edition1)
  10. 海を渡る橋

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