週末ともなれば愛車で中央フリーウェイをかっ飛ばし、いきつけのバーで甘いカクテルに酔いしれ、船上パーティーでひとときのアバンチュールを楽しんだものである。…まあ僕がオトナになった頃は、バブルはすっかりハジけていて、そんなオイしい経験は皆無ですが。
ウィークエンドというコトバを聞いただけで、心がウキウキ騒ぎだすという時代が確かに存在したのだ。’76年生まれの土岐麻子は世代的には僕とほぼ一緒だが、’80年代の華やいだ空気感は子供ながらに感じていたに違いない。
パステルカラーに彩られたカバー・アルバム『Weekend Shuffle」(2006年)は、YMOの『君に胸キュン。』(1983年)、作詞・作曲を大瀧詠一が手がけたラッツ&スターの『夢で逢えたら』(1996年)、シュガーベイヴの『Down Town』(1975年)、山下達郎の『土曜日の恋人』(1986年)と、当時のシティ・ポップの名曲をコンパイル。
ドライヴ・ミュージックなどという言葉は今や死語だろうが、まさに『Weekend Shuffle』は“使える”ドライヴ・ミュージック・アルバムなんである。
さらにはEarth Wind & Fire『September』(1978年)、Maroon 5『Sunday Morning』(2002年)、大リーグの愛唱歌『Take Me Out To The Ballgame』といった洋モノも、ジャジーかつボッサにリアレンジ。
Cymbalsのリード・シンガーとしてミュージック・シーンに登場した土岐麻子は、渋谷系の文脈で語られることが多い存在だった。しかし、父親がサックス奏者の土岐英史であることも手伝って、ベーシックな音楽的アイデンティティーは、スタンダード・ジャズにある。
『STANDARDS~土岐麻子ジャズを歌う~』(2004年)、「STANDARDS on the sofa~土岐麻子ジャズを歌う~』(2004年)、『STANDARDS gift~土岐麻子ジャズを歌う~』(2005年)など、ジャズ・ヴォーカル・アルバムも過去に3枚リリースしているのだ。
30歳を超えて、丸みと柔らかさを増した土岐麻子のヴォーカリゼーションは、バッキングの利いた軽妙なリズム・セクションと、華やかなホーン・セクションと絶妙に絡み合い、都会の煌めきと清涼な空気感を体現している。
『Weekend Shuffle』は’80年代のシティポップの手触りを感じさせる、極めて用意周到な計算が施されたアルバムなのだ。
- アーティスト/土岐麻子
- 発売年/2006年
- レーベル/LD&K
- 君に胸キュン。
- 夢で逢えたら
- Down Town
- Take Me Out To The Ballgame
- 土曜日の恋人
- 夏の思い出
- September
- Sunday Morning
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