さんだる/たま

一大現象を巻き起こした、シュールとメルヘンが重なり合う摩訶不思議世界

筆者も含む、70年代生まれの音楽ファンは、青春期である80年代後半~90年代前半のバンドブームの洗礼をおもいっきり受けた世代である。

テープが擦り切れるほどウォークマンでユニコーンやプリプリを聴きまくり、エレキギターを衝動買いして友達と即席バンドを組み、Fコードで挫折した世代である。

そもそもロックとは社会に対するアンチテーゼであり、既存のシステムへの反抗として産み出された音楽だ。パンキッシュで暴力的なサウンドは、ややもすれば” 不良な音楽”としてみられがちだったが、そんなJ-ROCKを一気に大衆化させてしまったのがバンドブームだったんである。

元号が昭和から平成に移り変わるのと時同じくして、ロックもまた若い世代の思いが仮託されたシュプレヒコールへと変貌し、シンプルでメロディアスなサウンドには、青春時代を切り取ったかのような詩世界が宿るようになる。

バンドブームによって、ロックはたちまちのうちに市民権を獲得し、当時の人気バンドたちは、アイドル顔負けの黄色い声援を浴びるような存在になった。

当時、そんなバンドブームを支えたのが、1989年からTBS系で放送された『平成名物TV・いかすバンド天国』、通称『イカ天』。アマチュアバンドがその腕を披露するこの音楽コンテスト番組は、全国津々浦々のバンドメンに、勇気と希望を与えた。

実際この番組をきっかけにして、スターダムに駆け上っていったバンドは数知れない。浜崎貴司率いる実力派バンドFLYING KIDS、後年ホワイトベリーによるカバー曲「夏休み」がヒットしたことでも有名なJITTERIN’ JINN、夏川りみに大ヒット曲「涙そうそう」を提供したことでも知られるBEGIN、イカ天審査員から激賞されたBLANKY JET CITY…。

実は、かのGLAYも『イカ天』出演歴アリ。しかし演奏が途中でストップさせられてしまうなど、審査員には不評だった。

『イカ天』は、ウェルメイドで完成されたバンドではなく、荒削りなダイヤの原石を次々とメジャーシーンに送り出す、輸出工場のような役割を果たしたといえる。

ちなみに後年、全く同じコンセプトの番組も多くつくられたのだが、いずれも思いっきりコケていた。今にして思えば『イカ天』は、時代を捉えた名企画番組だったのだ。

そして、番組が生んだ最大のスターこそが、たまである。

キノコ・ヘアーの知久寿焼(ギター)、山下清を彷彿とさせる石川浩司(パーカッション)、謎の民族衣装に身を包んだ滝本晃司(ベース)、おかっぱ頭の柳原幼一郎(オルガン)の4人から成る、謎の音楽集団。

元々彼らはソロで活動していたのだが、両国でのライヴ・イベントをきっかけにバンドを結成。有頂天のケラ(現:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)が主宰するインディーズレーベル「ナゴムレコード」にデモテープを送ったことをきっかけに、アンダーグラウンド・シーンで活動を続けていた。

シュールとメルヘンが重なり合う摩訶不思議世界は、ナゴムレコード系直系のアングラ路線なれど、卓越したハーモニーと演奏技術で、審査員のド肝を抜く。

強烈なインパクトで14代目イカ天キングに輝くと、その後もアレヨアレヨと敵を蹴散らし、5週勝ち抜きで第3代グランドイカ天キングの座にまで上り詰めてしまった。

ルポライターの竹中労が「日本のビートルズ」と激賞し、紅白歌合戦にも出場を果たし、シングル『さよなら人類』は50万枚を超す大ヒット。彼らは、日本音楽界の一大現象となったんである。

当時僕も、メジャー1stアルバムとなる『さんだる』をソッコー買い。特にM-7『ロシヤのパン』の麻薬的なサウンドと尋常ならざるリリックには、あっけにとられた。「今まで聴いたことのない音楽だ!」と熱心に繰り返して聴いた。

その一方で、アルバムのラストを飾るM-11『れいこおばさんの空中遊泳』を聴いた時は、ビートルズの『Lucy In The Sky With Diamonds』とのストレートすぎる関連性に驚き、「ははあ、このバンドはビートルズの影響をモロに受けてるんだな」と思ったものだ。

1995年、音楽の方向性の違いを理由に柳原幼一郎が脱退。3人編成になってからもマイペースに音楽活動を続け、フジテレビ『ちびまる子ちゃん』のエンディングテーマとして『あっけにとられた時のうた』を提供したり、NHK教育テレビ『おかあさんといっしょ』の挿入歌『ハオハオ』の作曲・演奏を担当したりしていたが、2003年に解散する。

あれから30年以上経過した今でも、僕は時々『さんだる』をiTunesで聴いている。そして初めて聴いた時と同じような気持ちで、『ロシヤのパン』の麻薬的サウンドに耳を傾けているのだ。

DATA
  • アーティスト/たま
  • 発売年/1990年
  • レーベル/アクシック
PLAY LIST
  1. 方向音痴
  2. おるがん
  3. オゾンのダンス
  4. 日本でよかった
  5. 学校にまにあわない
  6. どんぶらこ
  7. ロシヤのパン
  8. さよなら人類
  9. ワルツおぼえて
  10. らんちう
  11. れいこおばさんの空中遊泳

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