“ダブ・ステップの貴公子”が奏でる、どこまでも透明で深淵なアンビエント
個人的な意見を言わせて頂くなら、2012年のフジロックにおけるベスト・パフォーマンスは、“ダブ・ステップの貴公子”ことジェイムス・ブレイクに決定!!!であります。わざわざ同時間帯のストーン・ローゼスを最初の2~3曲で切り上げ、ホワイトステージに移動したのは大正解。
長袖のジャケットにジーパンという気取らない格好で登場したジェイムズ・ブレイクは、グリーンステージの喧噪なんぞどこ吹く風、どこまでも透明で深淵なアンビエントをプレイ。深い深い海の底から月明かりを眺めるかのような、心地よいサウンドスケープに僕は身も心も浸したのだった。
そもそもダブ・ステップとは何ぞや。Wikipedia先生によると、
2ステップのダブミックスにブレイクビーツやドラムンベースの要素を加えた音楽を選曲することが流行したのがダブステップの始まりである
とある。ぶっといベースラインと、ほのかにリバーヴのかかったドラムパターンが恍惚状態を呼び起こす、ガラージュ・ミュージック。
プリミティヴなリズムに合わせて、細かく刻まれたサンプリング音と電子音が絡み合い、えも言われぬ音像を創り上げる。そう、ダブ・ステップとは新世代のトリップ・ミュージックなのだ。
だが1988年生まれ(AKB48の大島優子と同い年!)の若き天才アーティスト、ジェイムズ・ブレイクの紡ぐダブ・ステップは、さらにそこから一線を画している。もはやダブ・ステップというカテゴリを逸脱して、オンリー・ワンのドメスティックなポップ・ソングを奏でているのだ。
自らの名前を冠したデビューアルバム『James Blake』(2011年)を一聴すれば、ソウル、ジャズ、クラシックといった要素がこの上なくシンプルなアレンジとリズムで溶け合い、ブレイク節としか言いようがないトラックに昇華されていることに感銘を受けるだろう。
オープニングを飾るM-1の『Unluck』からヤバい。カチャ、カチャというキック音がひっきりなしに鳴り響く中、薄くオートチューンをかけられたブレイクのウィスパー・ボイスが、荘厳さをたたえて耳に忍び込んで来る。
途中で重なるオルガンの音は、まるで葬送曲のような不穏さを漂わせ、それでいて気高さに満ちたサウンドは、中世音楽のような神性すら感じさせるのだ。
M-2の『Wilhelms Scream』もまた、歌詞通り「fallin’, fallin’, fallin’, fallin’」してしまうダウナー・アンセム(フジロックのセットリストではこの曲がラスト・プレイだった)。
M-3『I Never Learnt To Share』は、自分のヴォーカルを多重に重ねてあわせたエクペリメンタル・チューン。M-7『Give Me My Month』は、ピアノ伴奏オンリーのバラード。「少年時代のサム・クックやジョニ・ミッチェルがアイドルだった」というブレイクらしい、フォーキーな味わいが楽しめる。
ラストを飾るM-11『Measurements』に至っては、一人ゴスペルとでも呼ぶべきリズム・アンド・ブルースな一曲である。
決して、ダンスフロアで熱狂するような音楽ではない。複雑なリズムのうえにBPMが遅いので、そもそも踊れやしない。
ジェイムズ・ブレイクの奏でるポスト・ダブ・ステップは、遅い冷ややかなビートの上でメロディーが踊る、内省的ポップスだ。孤独を噛み締めるかのような、エレクトロニカ・ミュージックだ。
そんなアルバムは、月の出ていない夜の闇のなか、ひっそりとiPodで眼を閉じながら聴くのが良ろしいんである。
- アーティスト/James Blake
- 発売年/2011年
- レーベル/Republic
- Unluck
- The Wilhelm Scream
- I Never Learnt To Share
- Lindesfarne I
- Lindesfarne II
- Limit To Your Love
- Give Me My Month
- To Care (Like You)
- Why Don’t You Call Me
- I Mind
- Measurements
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