2026/5/1

『Perfume 〜Complete Best〜』(2006)徹底解説|J-POPの定義を書き換えたレトロ・フューチャーの衝撃

『Perfume ~Complete Best~』(2007年/Perfume)
楽曲背景と意味を深掘り考察・批評・レビュー

10段階評価
6 OKAY
概要

『Perfume 〜Complete Best〜』(2006年)は、Perfumeがメジャー進出後に発表したシングル曲を中心に構成された、初のベスト・アルバム。当初は限定生産の活動の集大成としての色合いが強かったが、後に彼女たちがブレイクを果たす決定打となった。最大の特徴は、全曲の作詞・作曲・編曲を手がけた中田ヤスタカによる徹底したテクノポップ・アプローチ。ヴォーカルにオートチューンを施し、楽器の一部として扱う手法は、当時の日本のアイドルシーンにおいて極めて異質であり、同時に圧倒的にモダンな響きを持っていた。本作のリリース後、木村カエラら著名人の支持やCMタイアップを経て、PerfumeはJ-POPの定義を書き換える存在へと躍する。

目次

ローカルアイドルからの脱皮

大本彩乃(のっち)、樫野有香(かしゆか)、西脇綾香(あ~ちゃん)の3人から成るテクノポップ・ユニット、Perfume。

アクターズスクール広島出身の彼女たちは、結成当初は広島限定のローカルアイドルとして活動しており、サンプラザ中野くんとともに爆風スランプで活躍したパッパラー河合が楽曲提供やプロデュースを務めていた。

当時のミュージック・ビデオなどを冷静に見返してみると、ルックス、楽曲、ダンスともに、いなたい(垢抜けない)印象はどうしても拭えない。しかし、アミューズへと事務所を移籍し、本格的に上京してからの彼女たちの快進撃は、まさに目を見張るものがあった。

思い返せば、僕が生のPerfumeと初めて遭遇したのは、2006年の11月。母校である武蔵野美術大学の芸術祭でのことだった。

二浪したうえに3年目で中退するという苦い記憶を残したこの学び舎へ、久々に足を踏み入れた僕の目にまず飛び込んできたのは、「ムサビに足りないものはアイドルだ!」と大書された熱い張り紙だった。

思えば、他大学の学園祭が人気のお笑いタレントや気鋭のロックバンドを招聘して華やかなイベントを数多く催しているなか、武蔵美といえば宗教学者・中沢新一の知的なトークショーや、明和電機のシュールなミニ・ライヴなど、良く言えばアカデミック、悪く言えば地味すぎるラインナップが常だった。

そんな堅物な系譜を経て、最終的に「アイドルを呼ぶ」という英断を下した当時の実行委員会の面々には、心からの賛辞を贈りたい。さらに言えば、有象無象のアイドルたちのなかから、ブレイク前夜のPerfumeをピンポイントでセレクトしたその慧眼は、絶賛に値するものだった。

未完成という名のアイドル論

今でこそ、RHYMESTERの宇多丸や、ロマンポルシェ。の掟ポルシェ、さらには木村カエラといったエッジの効いたアーティストたちがファンであることを公言し、NHKのエコキャンペーンCMにまで起用される国民的グループとなった彼女たちだが、この2006年時点では、熱心なアキバ系層とマニアックなクラブ系リスナーという、極めて限定的な界隈からの支持にとどまっていた。

しかし、ムサビの特設ステージでトキメキとキラメキに満ちたテクノ・ポップを熱唱しながら、幾何学的でクセのあるダンスを踊る彼女たちの姿は、ワールド・ワイドな視点で見ても規格外に可愛すぎた。当日同行していたS嬢などは、そのあまりの魅力に悶絶し、半ば失神寸前の状態に陥っていたほどだ。

インディーズ時代からメジャーデビュー初期までの楽曲を網羅したベストアルバム『Perfume ~Complete Best~』(2006年)は、その強気なタイトルもさることながら、収録されているコンテンツの質が桁違いに素晴らしい。

とくに、音楽ユニット「CAPSULE」のメンバーとしてクラブ・シーンを牽引する中田ヤスタカがコンポーザーを務めた楽曲群は、まったく新しいアイドル・ユニットの在り方を明快に提示していた。

それは、「アイドルとは自己完結した完成品ではなく、常に他者(リスナー)の想像力によって補完されることで初めて成立する存在でなくてはならない」という鮮やかなテーゼである。

レトロ・フューチャーの多幸感

「近未来テクノ3部作」と称される『リニアモーターガール』(2005年)、『コンピューターシティ』(2006年)、そして『エレクトロ・ワールド』(2006年)。

これらの中田ヤスタカ提供楽曲で歌われるリリックは、意図的に感情を排した平板なものであり、どこか前時代的でチープなSF観に満ちている。しかし、高い音楽的リテラシーを有するリスナーたちは、その意図的な余白を自らの想像力で埋め合わせることで、楽曲を自分だけの物語として完璧に補完してしまうのだ。

CAPSULEの楽曲ほどエッジの効いた攻撃的なクラブ・ミュージックにはせず、あえて8ビット的なピコピコ感を多めに残し、スペーシーな浮遊感が高まるようにチューニングされたトラックメイクが、その補完作業の強力な一助を担っている。

たとえば、当時の宇多田ヒカルあたりのトップアーティストと比較すれば、プロモーションや映像制作に投下できる予算は文字通り桁が2つほど違っていただろう。

しかし、予算の少なさを逆手に取ったようなチープでレトロ・フューチャーなセンスをたたえたミュージック・ビデオは、最新鋭のCGに勝るとも劣らない、極上の多幸感をリスナーに提供してくれた。

音楽的構造、時代性、そしてサブカルチャーの文脈。彼女たちを語る切り口はいくらでも存在する。だが、すべての小難しい分析を投げ打って最後に言わせていただくなら、僕はのっちが一番カワイイと思うのである。

アルバム情報
プレイリスト
  1. 1. パーフェクトスター・パーフェクトスタイル
  2. 2. リニアモーターガール
  3. 3. コンピューターシティ
  4. 4. エレクトロ・ワールド
  5. 5. 引力
  6. 6. モノクロームエフェクト
  7. 7. ビタミンドロップ
  8. 8. スウィートドーナッツ
  9. 9. ファンデーション
  10. 10. コンピューター ドライビング
  11. 11. Perfume
  12. 12. wonder2
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