リスナーをまだ見ぬ桃源郷に誘い込む、中毒性高めの天外魔境的アルバム
僕とCANの邂逅を仲介してくれたのは、ポール・トーマス・アンダーソンの怪作『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)だった。
オープニングから流れてくるのが、CANが1972年に発表したアルバム『Ege Bamyasi』に収録されている『Vitamin C』。五感を麻痺させるかのようなドラッギー感覚に貫かれた『インヒアレント・ヴァイス』と、CANのサイケデリック・ロックがパーフェクトなマッチングを果たしていたんである。
彼らの存在は知っていたものの、それまで熱心に聴いてこなかったことを激しく後悔。慌ててスタジオアルバムをまとめてチェックした次第。
時系列に沿ってCANの音楽を聴いてみると、ロックというよりも実験的な前衛音楽に近いサウンドを創り上げてきた彼らだが、この『Ege Bamyasi』はある意味で最もポップで、最も聴きやすいアルバムに仕上がっている(ちなみにタイトルはエーゲ海のオクラ、という意味だそうな)。
M-1『Pinch』から奇妙奇天烈な変拍子&変態的フレーズのオンパレードなんだけど、耳なじみはとってもキャッチーで、難解ではなく大衆に開かれた音楽にちゃんとなっているのだ。
特に最後に収録されているM-7『Spoon』は、ドイツのテレビドラマ『Das Messer』のテーマに起用されたこともあり、シングル・チャート6位にランクイン。
そのポップ・センスはヒップホップ・アーティストとの相性が良いらしく、カニエ・ウェストは『Drunk and Hot Girls』というトラックでM-2『Sing Swan Song』を、スパンク・ロックは『Energy』でM-4『Vitamin C』をサンプリング。
チープなドラムマシン、幻術的なギターワーク、そしてダモ鈴木の中性的なヴォーカル。あらゆるエレメントが、CANという唯我独尊バンドの血肉となり、リスナーをまだ見ぬ桃源郷に誘い込む。
中毒性の高い天外魔境的アルバム、それが『Ege Bamyasi』なのである。
- アーティスト/Can
- 発売年/1972年
- レーベル/United Artists Records
- Pinch
- Sing Swan Song
- One More Night
- Vitamin C
- Soup
- I’m So Green
- Spoon
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