サスペンス映画の体裁をとりながらも、観終わって脳内を反芻するのは、都会の闇と孤独を浮かび上がらせるマイルス・デイビスの即興ジャズをバックに、夜の街を恋人を求めてさすらうジャンヌ・モローの姿だ。
愛ゆえに孤独であり、愛ゆえに犯罪に手を染めていく男と女。いや~、人間って本当に愚かですね。
大会社の社長婦人と不倫関係にあったモーリス・ロネが、エレベーターの停止によるアクシデントから、綿密な完全殺人がもろくも崩れ去っていく構成が鮮やかだ。
ひとつの不幸が更なる不幸を呼び、あげくの果てには身に覚えのないドイツ人殺人事件の容疑者として捕まってしまうモーリス・ロネ。
しかし、彼は自らのアリバイを告白することは絶対できない。自分が社長を殺害した時のアリバイが崩れてしまうからだ。この四面楚歌なシチュエーション設定が素晴らしい。
当時弱冠25歳(!)だったルイ・マルが紡ぎあげたストーリーは、モダンかつシャープ。冷ややかなモノクロームを滑るカメラは、スタイリッシュな映像と相まって強烈な印象を残す。
いわゆる美人女優ではないジャンヌ・モローが、この映画では何と悩ましく艶なことか。それもこれもルイ・マルが高感度フィルムを使用し、彼女をフォトジェニックに撮ろうとした努力の表れである。
『死刑台のエレベーター』は、男と女に関する普遍的な愛の構図だ。男女の愛は怏々にしてクライム.ストーリーに変貌していく。ルイ・マルはそれをおそろしく乾いたタッチで描いてみせる。
ラスト・シーンでも、クローズ・アップのジャンヌ・モローが悲痛に叫んでいるではないか。
「私は眠り、目を覚ます…一人で…。でも愛してた、あなただけを。二人は一緒、どこかで結ばれてる…」。
犯行の決定的証拠となったフィルムに浮かび上がる仲むつまじい二人は、血の代償と共に色褪せていく。
- 原題/Ascenseur Pour L’echafaud
- 製作年/1957年
- 製作国/フランス
- 上映時間/92分
- 監督/ルイ・マル
- 脚本/ルイ・マル
- 製作/イレーネ・ルリシュ
- 原作/ノエル・カレフ
- 脚本/ロジェ・ニミエ
- 撮影/アンリ・ドカエ
- 音楽/マイルス・デイビス
- 美術/リノ・モンデリニ
- モーリス・ロネ
- ジャンヌ・モロー
- ジョルジュ・プージュリー
- ジャン・ヴァール
- イワン・ペトロヴィッチ
- フェリックス・マルタン
- ユベール・デシャン
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