2017/10/30

『ベスト・キッド』(2010)なぜウィル・スミス・ホームムービーは世界で愛されたのか?

『ベスト・キッド』(2010)
映画考察・解説・レビュー

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概要

『ベスト・キッド』(2010年)は、ウィル・スミスがプロデュースし、息子ジェイデン・スミスが主演を務めたハリウッド版リメイク。アメリカから中国・北京へ移住した少年ドレが、学校でのいじめをきっかけに、マンションの管理人であるハンと出会う物語。ドレは新しい環境になじめず、同年代の少年たちとの衝突が続くが、ハンは彼に武術の基礎と心構えを教え始める。母シャリーンは慣れない生活の中で息子を支えようとし、ドレは修行と実践を重ねながら、学校で行われる武術大会への参加を目指していく。

目次

セレブ親バカの極致──映画一本まるごと息子プロジェクト

ケータイの待ち受けを子供の写真にするとか、運動会でビデオカメラを構えるとか、親バカの在り方にもいろいろある。だが、ハリウッド・セレブの親バカは次元が違う。

8000万ドルの収入を得て「2008年最も稼いだ俳優」ランキング1位に輝いたウィル・スミスは、なんと自分の息子ジェイデン・スミスを主役にした映画を製作してしまったのだ。

『幸せのちから』(2006年)での親子共演では飽き足らず、今回は父がプロデューサー、息子が主演という“スミス家商法”を本格稼働。おそらく家庭ではこんな会話があったに違いない。「パパー、ボク、かっこいい映画の主役やりたいよー」「ハッハッハ、よし、じゃあ『ベスト・キッド』のリメイクでも作ろうか。師匠役はジャッキー・チェンで!」──この親子の規模感、もはや天上人レベルである。

かくして、史上最強の親バカ映画『ベスト・キッド』(2010年)は華々しく始動した。

イジメ知らずのモテキャラ──ジェイデン版『ベスト・キッド』のアップデート

オリジナルの『ベスト・キッド』(1984年)では、ラルフ・マッチオ演じるモヤシ青年が、カラテを通じて成長するという、実に健全でベタな青春映画だった。

だが今回の主役・ジェイデン君は違う。「ボク、イジメられたことないから、いじめられっ子の気持ちなんか分かんない!」と豪語。……その時点でキャスティング・ミスでは?

だがそこはスミス家のスター遺伝子。持ち前の運動神経と抜群のリズム感を武器に、中国武術の達人に挑む“モテキャラ少年”として完全アップデート。

ジャスティン・ビーバーとのデュエット曲「Never Say Never」を自ら歌い上げ、しかもヒロイン(ハン・ウェンウェン)と熱烈なキスまで交わす。12歳にして人生フルコースである。

スクリーンには、わが子の成長を見守る父ウィルの満面の笑みが随所に差し込まれる。ラスト・クレジットでは父子が談笑するスナップ写真が満載。これでもかというほどの“スミス家記念アルバム”構成だ。

だが、ただの親バカ映画で終わらせないのがハリウッドの恐ろしさである。驚くべきことに、この作品、意外にもよくできているのだ。

親バカ映画にして意外な快作──アクションと演出の成熟

まずアクション。ジャッキー・チェンお抱えのスタント・チームが手掛けただけあって、格闘シーンの完成度はオリジナルをはるかに凌駕。

スローを駆使した蹴り、躍動感あるカメラワーク、息をのむような対決シーン──どれをとっても本格的。おじさん世代としては「年端もいかない子どもたちが、こんなに激しく戦って大丈夫か」と心配になるレベルだ。

脚本も練れている。「単なるワックスがけが空手の基本動作だった」という1984年版の象徴的シーンを安易に踏襲せず、「ジャケットをハンガーにかける」動作に置き換えている。

この設定変更が秀逸だ。だらしない少年が“服を片付ける”ことを通じて、礼儀や精神の整え方を学ぶ──まさに母親目線でも納得の成長譚である。

監督ハラルド・ズワルトの演出も、思いのほか手堅い。訓練シーンを鳥瞰ショットで描くことで、師弟関係のドラマに壮大なスケールを与える。ロッキー的なモンタージュを導入し、観客を飽きさせないテンポで139分を駆け抜ける。

結果として、『ベスト・キッド』は単なるスミス家の道楽ではなく、80年代リメイク作品の成功例となったのだ。

金と愛情と映画の幸福な関係──世界一贅沢なホームムービー

ウィル・スミスがこの企画にどこまで本気だったのかはわからない。だが、金と愛情のバランスがここまで幸福に共存した映画も珍しい。

息子を主役に据え、ハリウッドのトップスタッフを動員し、全世界で3億ドルを稼ぎ出す──まさに“親の愛”が資本主義と結託した奇跡の産物である。

そして皮肉なことに、その「公私混同」こそが作品のエネルギーになっている。親が子を支え、子が父を越えようとする。裏側の家族ドラマが、そのままスクリーン上の成長物語とシンクロしているのだ。映画全体に流れるポジティブな空気は、そのままスミス家の家庭内テンションの反映だろう。

ハリウッドはどれだけ私的であっても、それを“作品”に変換できる。愛情も野心も金銭も、等しく映画の燃料になる。『ベスト・キッド』は、世界で最も贅沢なホームムービーであり、同時にハリウッドの生存戦略そのものである。

どれだけ公私混同しようとも、金と才能を注ぎ込めば、一級のエンターテインメントができてしまう。そう、この作品はスミス家のファミリービジネスであると同時に、映画そのものへの祝福なのだ。

観客としてはただ、ハリウッドの底力を笑いながら拍手するしかない。