ルシアンの青春/ルイ・マル

ルシアンの青春 Blu-ray

通俗性に戯れたいのか?芸術性に戯れたいのか?ルイ・マルが描く戦争の暗い闇

ジャンゴ・ラインハルトによる陽気なジプシー・スウィングが流れるなか、フランス農村地帯の田舎道を、ルシアン少年が自転車で駆け抜けていく。

心躍るイントロダクションから、『ルシアンの青春』(1973年)はさぞかし“笑いあり・涙あり”の、痛快青春記が繰り広げられるのだろうと思いきや、時はフランス北部がドイツの占領下に置かれた1944年であるからして、そう簡単にコトは運ばない。戦争の暗い闇は、ルシアンの運命を残酷に歪めていくのだ。

田舎育ちのルシアンは、素朴だが粗野で思慮が足りない17歳という設定だが、そもそも17歳の男の子に分別なんぞ皆無。うさぎ狩りで磨いた射撃術が見込まれてドイツ警察の手先になるのだが、別に彼はゲシュタポだ、レジスタンスだというイデオロギーがある訳ではない。デカダンスな頽廃的&享楽的気分に惹かれて、その一員になるだけなのだ。

ドイツ警察であるにも関わらず、ユダヤ人の娘フランスに恋をしてしまったことから、物語はさらに悲劇性を増す。本心を打ち明けられる親友もいない彼は、ひたすら彼女への恋慕と孤独に耽溺していく。

ルイ・マルは、その心象風景をナレーションやセリフで語らせようとはしない。ルシアンの顔を執拗にクローズアップで捉え、決して能弁ではない彼の内面を、スクリーンに焼き付けようとする。かくして青春の悲劇性は浮き彫りにされる。

この映画が最も奇妙なフォルムを露出し始めるのは、ルシアンとフランスとその祖母が国境に近い空家に逃げ込み、安らかな日々を過ごす終盤のシーンだろう。

屈託の無い素振りで、お互いを求め合うシーンがあるかと思えば、不意にフランスがその目に殺意を宿すカットも唐突に挿入される。冒頭の陽気なジプシー・スウィングとはうって変わり、奇妙なメロディーを奏でるフルートの音色が、不安感を増幅させる。

ドイツ軍の捕虜となった父親、村長の情婦になった母親、ルシアンを利用できるだけ利用しようとするドイツ警察の面々、そして彼をどこかで憎悪しているフランス。

真の友情も真の恋愛も得られぬまま、映画は「彼はレジスタンスに捉えられ、死刑に処された」というテロップが入り、終幕を向かえる。ラストカットのルシアンの表情に浮かぶどこか憂いを込めた瞳は、己の運命を見定めているようだ。

だが、『ルシアンの青春』の失敗は、個人的にはここにあるように思う。17歳の少年が自分の運命を見定めて受け入れてしまうという事実こそ、ルイ・マルがこの映画に忍び込ませた最も悲劇的なファクターでるにも関わらず、愛情と殺意が交錯する複雑な心理をも現前化させてしまったがために、それが有効に機能していない。

ルイ・マルは通俗性に戯れたいのか、芸術性に戯れたいのか、それともその両方を越境する映画を撮り上げたいのか?この映画のどこかバランスを欠いた不思議な居心地の悪さは、結局彼の作家性に帰結するイシューのような気がする。

《補足》
ルシアンを演じるピエール・ブレーズは一般公募で選ばれた新人らしいが、彼は映画が完成した2年後に交通事故で亡くなったそうである。R.I.P.

DATA
  • 原題/Lacombe Lucien
  • 製作年/1973年
  • 製作国/フランス、イタリア、西ドイツ
  • 上映時間/140分
STAFF
  • 監督/ルイ・マル
  • 製作/ポール・メグレ
  • 脚本/ルイ・マル、パトリック・モディアノ
  • 撮影/トニーノ・デリ・コリ
  • 音楽/ジャンゴ・ラインハルト
  • 編集/シュザンヌ・バロン
CAST
  • ピエール・ブレーズ
  • オーロール・クレマン
  • オルガ・ローウェンアドラー
  • テレーゼ・ギーゼ
  • ステファーヌ・ブーヌ
  • ルム・イヤコベスコ

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