卓球にかける青春が凝固。血が鉄の味がする非スポコン映画
スペイン坂付近の劇場で『ピンポン』を観た後、渋谷卓球場にむかう「にわかピンポン小僧」ってどの位いるもんなんだろうね。
なめんなよ、若僧ども!こちとら中坊時代に3年間卓球部に所属した男よ。年季が違うんだよ、年季が!!…まあ、ノリとしては『ピンポン』よりも『稲中卓球部』に近かったですけど。
そもそも卓球なんていうマイナーなスポーツでは、試合そのもののカタルシスよりも、内面描写に力点が置かれがち。よくあるでしょ、内面の叫びをモノローグにして、映像とかぶせるみたいな。
しかし『タイタニック』(1997年)のVFXチームに参加していたこともあるという曽利文彦監督は、卓球の試合を押さえ気味のCGによってスピードとドライヴ感あふれるシーンに変貌させてしまった。チャンと映像が物語を牽引しているんである。
今や永瀬や浅野をも凌駕する勢い、オマケに叶姉妹とも仲の良い窪塚洋介が主人公・ペコを演じているが、いつものワンパターン芝居で表層的な演技にしかみえず。まあ超然としたキャラ設定ということもあるのだろうが、僕にはいささか食傷気味だった。
マンガではその行間に凝縮されていた、ペコとスマイルの心の逡巡みたいなものもイマイチみえてこない。つまり、「ヒーロー」という心象的風景がみえてこないということだ。セリフや演出によってそれは明確なんだが、体温が伝わってこないんである。
マンガチックにデフォルメされた人物造型が目立つこの映画のなかで、 「凡人にしか見えない風景もあるんだよ」という名セリフをはくアクマはかなしい程に「ニンゲン」である。
監督がもっとも思い入れの深かったキャラらしいが、僕も同感。観客と最も近いレベルである彼が中盤から物語を牽引してくれるおかげで、途中から映画はグンと体温を帯びてくる。
スポ根のお約束であるはずの特訓シーンも、ウェット感からかけ離れた窪塚とARATA、そしてSUPERCARの浮遊感漂うテクノ・ポップのおかげで全くベトベト感がなし!…まあ、血が鉄の味がする映画だから当たりまえか。
とにかく、ミニシアター系としては異例のブロックバスターであることは間違いなし(しかも邦画で!)。『GO!』に引き続きタッグを組んだ窪塚洋介&宮藤官九郎コンビの天下は、まだまだ続きそうである。…
あと、どーでもいいことだが、僕は夏木マリ演じるタムラのオバチャンが『千と千尋の神隠し』の銭婆にみえて仕方がなかった。
- 製作年/2002年
- 製作国/日本
- 上映時間/114分
- 監督/曽利文彦
- 製作総指揮/シイナタモツ
- プロデューサー/小川真司、鈴木早苗、井上文雄
- 原作/松本大洋
- 脚本/宮藤官九郎
- 撮影/佐光朗
- 音楽/真魚マオ
- 美術/金勝浩一
- 窪塚洋介
- ARATA
- サム・リー
- 中村獅童
- 大倉孝二
- 竹中直人
- 夏木マリ
- 荒川良々
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