暗い、華がない、ユーモアがない。ダラダラ続くスーパーマンの「ルーツ探し」
ブライアン・シンガーの『スーパーマン リターンズ』(2006年)は、決して悪い出来ではなかった。
「なぜ世界はスーパーマンを必要としないか?」というメタ的な問いを真正面から掲げた姿勢は時代にマッチしていたし、原典に対するリスペクト精神にも溢れていた。
しかし興行が振わなかったこともあって、ワーナー・ブラザーズのおエラ方はこの映画を“なかったこと”にして、改めてリブート企画を始動させたんである。
監督が『300 〈スリーハンドレッド〉』(2006年)、『エンジェル ウォーズ』(2011年)のザック・スナイダーなのはまあいいとして、個人的に気がかりだったのが、『ダークナイト』(2008年)のクリストファー・ノーラン、デヴィッド・S・ゴイヤーのコンビがプロデューサーと脚本を担当していること。
ブルース・ウェインみたく、スーパーマンまで「あーだこーだ」と悩むウジウジ話にはしてほしくないな~、と思っていた次第。しかしながら完成した『マン・オブ・スティール』(2013年)は、その懸念通りの映画になってしまった。
とにかく暗い。華がない。ユーモアがない。スーパーマンが颯爽と悪を退治するどころか、リチャード・ドナー版『スーパーマン』(1978年)では開巻10分程度で終わっていた「自分のルーツ探し」が、ほぼ全編に渡って語られるのだ。
33歳(地球年齢)にもなって自分探しって、それ単なるダメなフリーターだろ!アンチ・ヒーローとしてコミック・シーンに登場したバットマンならばそんなアプローチもOKだろうが、スーパーマンでもその手を使うっていうのはいかがなものか。
『マン・オブ・スティール』は、「もし本当にスーパーマンが存在したら?」という徹底したリアル指向で構築されている。あまりにも強大な力を持つ異星人に対し、人類は賞賛を贈るよりも恐怖を抱くはず。
まあそりゃそうでしょうけど、おかげでヒーローものに不可欠な“カタルシス”が完全欠如。“救世主”たるスーパーマンが初めて人類の前に登場するのが、米軍に投降するシーンだったりして、映画は最後まで人類からの拍手喝采をスーパーマンに浴びせることを許さない。
おまけにスーパーマン自身、「人類を救う」よりも、「己のアイデンティティーの確認」のためにゾッド将軍と闘う始末。スーパーサイヤ人ばりの超絶バトルを繰り広げたら、どう考えても数十万人規模で市民が犠牲になりますよね?
しかしスーパーマンはそんなことはどこ吹く風、「33歳の自分探し」を貫徹すべく、ニューヨークの街を灰燼に帰させる。 ジョー・エル(ラッセル・クロウ)の「息子に希望を託す」というセリフが白々しく聞こえることよ!
もちろん2013年現在、完全無欠で純真無垢なスーパーマンをそのまんま映像化するなんぞ、時代錯誤にも程がある。『スーパーマン リターンズ』が賢明だったのは、その時代錯誤そのものをドラマの中心に据えることによって、「いまスーパーマンを描く意義」を問いただしたこと。異論・反論ありましょうが、僕は『スーパーマン リターンズ』を肯定する者であります。
たぶん、『マン・オブ・スティール』の失敗の元兇は、おそらく製作サイドがスーパーマンという存在を「時代錯誤」だけでなく、単に「カッコ悪いもの」として捉えていたからではないか。
「胸に大きくSマーク、赤マントと赤パンのマッチョ男なんぞ、単なる変態やんけ!」とクリストファー・ノーランが言ったかどうかは知らないが、Sマークはクリプトン語で「希望」という意味だとか、赤パンを穿いてないだとか、そもそも映画内で“スーパーマン”という単語が出てくるのは一度だけだとか、映画の骨格がスーパーマンを否定することだらけ。 つまり、クリエイターたちが「ヒーローの存在を信じていない」のだ。
どんなにオールドファッションな題材であろうと、その物語・キャラクターを否定することでしかアップデートできないのであれば、そもそもリブートさせる必要なんてないんじゃね?と思う次第。
ということで本作唯一の誉めポイントは、ロイス・レインを演じるエイミー・アダムスがハマリ役だったくらいか。
- 原題/Man of Steel
- 製作年/2013年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/143分
- 監督/ザック・スナイダー
- 製作/チャールズ・ローヴェン
- 原案/デヴィッド・S・ゴイヤー、クリストファー・ノーラン
- 脚本/デヴィッド・S・ゴイヤー
- 撮影/アミール・モクリ
- プロダクションデザイン/アレックス・マクダウェル
- 衣装/ジェームズ・アシェソン、マイケル・ウィルキンソン
- 編集/デヴィッド・ブレナー
- 音楽/ハンス・ジマー
- ヘンリー・カヴィル
- エイミー・アダムス
- マイケル・シャノン
- ケヴィン・コスナー
- ダイアン・レイン
- ローレンス・フィッシュバーン
- アンチュ・トラウェ
- アイェレット・ゾラー
- クリストファー・メローニ
- ラッセル・クロウ
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