眩惑的なギターワーク、儚げなメロディーライン。フィービー・ブリジャーズの記念すべきデビューアルバム
おそらく、同じような感想を抱いた方はたくさんいらっしゃると思うんですが…僕が『Stranger in the Alps』(2017年)のジャケを見た時の第一印象は、映画『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2017年)やん!ということだった。
奇妙すぎるジャケットに興味を覚えて一聴してみたところ、これがハンパなくいい。紗がかかったかのようなくぐもったサウンド・デザイン、世界の終末を淡々と受け入れようとするかのようなメランコリックなメロディー、そしてあらゆる感情を剥ぎ取ったかのようなフィービー・ブリジャーズのヴォーカル。
不覚にも僕は彼女の名前を全く知らなかったのだが、調べてみて驚愕。iPhone 5sのCMで、謎の女性ヴォーカリストがピクシーズの『Gigantic』をカヴァーを歌っていたんだが、その正体が彼女だったんである。
11歳の時からソング・ライティングを始めていたというフィービー・ブリジャーズの才能は、世に出るべくして世に出ることになる。「次世代のボブ.ディランだ!」とライアン・アダムスが激賞し、彼のレーベル「Pax-Am」からEP『Killer』を2015年にリリース。
その2年後、MitskiやSlowdiveも所属する名門レーベル「Dead Oceans」から、満を辞してデビューアルバムとなる本作がリリースされる。
なぜフィービー・ブリジャーズは、ライアン・アダムスのレーベルから1stアルバムを出さなかったのか?実は、二人はもともと恋愛関係にあったのだが、次第に彼女を精神的に虐待するようになったのだという(ブリジャーズ本人の証言による)。
自分を音楽の世界に招き入れてくれた最大の恩人が、自分を最も苦しめる存在になろうとは。だが、彼女はことさら大きな声でそれを発信しようとはしない。
僕が最も愛聴しているナンバーは、M-2『Motion Sickness』だ。ディストーションの効いた眩惑的なギターワーク、ジョニ・ミッチェルを思わせる儚げなメロディーライン。
そして、まるでライアン・アダムスへの想いを赤裸々に綴ったかのようなリリックが、冒頭から歌われる。
I hate you for what you did
私はあなたがしたことを憎むわ
And I miss you like a little kid
そして、私はあなたに会えなくて寂しい。小さな子供のように
ある種の諦観めいたオプティミズムが、彼女のメランコリックなサウンドを包み込んでいる。曲を作る、歌を歌うという行為そのものが、彼女にとってのセラピーなのだろう。
ちなみに『Stranger in the Alps』という珍妙なタイトルは、コーエン兄弟の映画『ビッグ・リボウスキ』(1998年)にちなんだもの。
この作品で、ジョン・グッドマンが「Do you see what happens when you fuck a stranger in the ass(知らない奴のケツを触ったら、どうなるか知ってるか?)」というセリフを吐くのだが、テレビだと「ass」という表現が放送コードに引っかかってしまうため、「Do you see what happens when you find a stranger in the Alps(アルプスで知らない奴を見つけたら、どうなるか知ってるか?」という表現に変えられてしまったのだそうな。
いや、だから何でこのタイトル?謎すぎるでしょ。
- アーティスト/Phoebe Bridgers
- 発売年/2017年
- レーベル/Dead Oceans
- Smoke Signals
- Motion Sickness
- Funeral
- Demi Moore
- Scott Street
- Killer
- Georgia
- Chelsea
- Would You Rather
- You Missed My Heart
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