脳を揺さぶる視覚と聴覚の共鳴
音と映像との共振。ケミカル・ブラザーズはキャリア初期からライヴで巨大なスクリーンを導入し、音にシンクロしたヴィジュアルを投影していた。VJ的な発想をいち早くクラブ・カルチャーに取り入れたパイオニアといえる。
MVのセンスも抜群だ。特にミシェル・ゴンドリーが監督を務めた「Star Guitar」は、列車の窓から見える景色と楽曲のリズム/フレーズが完璧に一致するもので、彼らの美学を象徴する代表作といえるだろう。
そしてこの『Further』(2010年)では、アダム・スミスとマーカス・ライアルによる短編映像がCD+DVD(およびiTunes Pass)として同梱されている。全曲に映像作品が用意され、アルバムそのものがビジュアルと一体化しているのだ。音と映像との共振という彼らの美学がアルバム・コンセプトに据えられている。
この作品には、いっさいゲスト・ヴォーカルがいない。派手なコラボは影を潜め、代わりにライブセットを思わせる構成美が全編を貫く、成熟した音の旅を味わうことができる。
視覚と聴覚がシームレスに交錯する演出が、ライヴで強烈な没入体験を形成。軽いトランス状態になる(フジロック来日時、最前列・ど真ん中で体験した僕が言うんだから間違いない!)。
この音の旅は、打楽器の無いシンプルなフィードバックとモーターリックなリズム、浮遊する女性声による瞑想的イントロな印象的な「Snow」で幕を開ける。
そして12分を超える「Escape Velocity」へと緩やかに接続し、ヴィンテージ・シンセが重なり合う高揚感を味合わせたあと、ニューエイジで浮遊感のある「Another World」へと飛翔する。
デトロイト・テクノっぽいビートに、ユーモラスなヴォコーダーと馬の鳴き声サンプルが挟みこまれる「Horse Power」、イントロだけで体温が5℃くらいあがる「Swoon」、凶暴な生ドラムに脳天が打ち砕かれる「K+D+B」、そして「Wonders of the Deep」で余韻を祝福するクライマックスになだれこむ展開は最高だ。
『Further』は、ケミカル・ブラザーズがかつてのビッグビート的フォーミュラから離れ、内的世界と構成美を極めたアルバム。彼らのディスコグラフィーのなかでも、個人的に特に偏愛している一枚です。
- アーティスト/Chemical Brothers
- 発売年/2010年
- レーベル/Freestyle Dust
- Snow
- Escape Velocity
- Another World
- Dissolve
- Horse Power
- Swoon
- K+D+B
- Wonders Of The Deep
