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『ワン・プラス・ワン』(1968)なぜゴダールはロックに革命を重ねたのか?

『ワン・プラス・ワン』(1968)
映画考察・解説・レビュー

5 OKAY

『ワン・プラス・ワン』(原題:One Plus One/1968年)は、ジャン=リュック・ゴダール監督が、ローリング・ストーンズの名曲「悪魔を憐れむ歌」のレコーディング風景と、60年代末の政治的寓話を大胆に交錯させた実験映画。ミック・ジャガー、キース・リチャーズらがスタジオで徐々に音を重ね、リズムが形を帯び、歌詞が試行錯誤の末に定着していく“創作の瞬間”がドキュメンタリーとして淡々と記録される一方で、ゴダールはブラック・パワー運動のモチーフや反資本主義的な朗読劇、政治的スローガンが乱立する奇妙なパフォーマンスを挿入し、当時の社会の不穏さを映し出していく。

ゴダールの政治的転回と60年代末の背景

言うまでもなく、ジャン=リュック・ゴダールは『勝手にしやがれ』(1959年)や『気狂いピエロ』(1967年)でシネマを刷新した、ヌーヴェルヴァーグを代表するスーパースターだ。

しかし60年代末、彼は毛沢東主義へ傾倒し、政治的言説をフィルムに直接組み込む姿勢を強めていく。『ワン・プラス・ワン』(1968)は、その政治的転回と同時に、ロックンロールの名曲が誕生する瞬間を焼き付けた特異な作品である。

映画は、ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」の録音過程と、都市の片隅で展開される政治的寸劇を交互に配置する。リロイ・ジョーンズ『ブルースの魂』を読み上げる黒人青年、ヒトラー『わが闘争』を朗読するポルノショップの店主、「はい」「いいえ」で答えるアンヌ・ヴィアゼムスキー。これらの断章が長回しのワンショットで淡々と記録されていく。

Beggars Banquet
ローリング・ストーンズ

ストーンズ史の観点から見れば、この記録はきわめて示唆的だ。1968年、バンドはブライアン・ジョーンズの薬物依存と法的問題に揺れ、実質的な音楽的主導権はミック・ジャガーとキース・リチャーズに手渡された。

映画におけるブライアンの影は薄く、その不在の存在感が、むしろ彼の脱退と死の近さを予兆する。対照的に、チャーリー・ワッツとビル・ワイマンが堅固なリズムを支え、その上に新たな音響が積み重ねられることで、楽曲が少しずつ立ち上がっていく様子が刻印されている。

ロック映画の実験化

明らかに『ワン・プラス・ワン』は、単なるストーンズのドキュメントではない。むしろロック映画の特異点として位置づけられるべきだろう。

60年代のロック映画は、『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! 』(1964年)や『ヘルプ!4人はアイドル』(1965年)に代表されるような、スターの魅力を存分に伝える娯楽作品が主流だった。

そこに対してゴダールは、演奏の断片を延々と積み重ねる制作の過程と、政治的寓話と並列させることで、ロック映画を「思索を要請する実験映画」へと変質させたのである。

『ワン・プラス・ワン』は、1968年の五月革命とロック文化の生成をひとつの映画に封じ込めてしまった。政治映画であると同時に音楽映画であり、娯楽性を拒絶しつつも歴史的瞬間を記録する。なんともはや、変な映画だ。

武闘派、ゴダール

ちなみに、ストーンズが完成版「悪魔を憐れむ歌」を演奏するシーンが最後に流れるが、これはプロデューサーのイアン・クォーリエによる商業的判断によるもの。オリジナルのエンディングをカットして、勝手にインサートしてしまったというのだ。

ゴダールはこれに烈火のごとく激怒し、ロンドン国立映画劇場で行われたトークショーで、クォーリエをぶん殴るという暴行に及んでいる。

国立映画劇場の支配人だったマイク・ウェッセンズが仲裁に入るも、ゴダールは彼にも殴りかかり、勢い余ってステージから転落してしまった。いやいや、どんだけ武闘派なんだゴダール。

《補足》
2021年、チャーリー・ワッツ逝去を受けて『ワン・プラス・ワン』がリバイバル追悼上映されたんだが、その際に“今一番イケてるデザイナー”大島依提亜さんが手がけたポスター・デザインが、鬼カッコ良かったことを付言しておきます。惚れ惚れ。

DATA
  • 原題/One Plus One
  • 製作年/1968年
  • 製作国/イギリス
  • 上映時間/101分
  • ジャンル/ドキュメンタリー
STAFF
  • 監督/ジャン=リュック・ゴダール
  • 脚本/ジャン=リュック・ゴダール
  • 製作/マイケル・ピアソン、イェーン・クォーリア
  • 撮影/トニー・リッチモンド
  • 音楽/アーサー・ブラッドバーン、デリック・ボール
  • 編集/ケン・ラウルス
CAST
  • ミック・ジャガー
  • ブライアン・ジョーンズ
  • キース・リチャーズ
  • チャーリー・ワッツ
  • ビル・ワイマン
  • アンヌ・ヴィアゼムスキー
  • イェーン・クォーリア
FILMOGRAPHY