『Talio』──70年代の残響と現代シティポップの邂逅
『Talio』(2020年)は、NHKドラマ『タリオ 復讐代行の2人』のために制作されたサウンドトラック。音楽プロデュースは岩崎太整、シンガーの一十三十一とクニモンド瀧口(流線形)が参加。フュージョン黄金期のグルーヴを現代的に再構築した本作は、洒脱なベースラインとアナログ・シンセの温かい響きを軸に、70年代末〜80年代初頭のテレビドラマ音楽を思わせる質感を再現する。ヴォーカル曲「金曜日のヴィーナス feat. 堀込泰行」や「悲しいくらいダイヤモンド」はシティポップの甘美さをまとい、インストゥルメンタルの「タリオのテーマ」は大野雄二作品を想起させる軽やかなスウィングで彩られる。
甦るフュージョン黄金期──テレビドラマの中の“音の記憶”
かつての刑事・探偵ドラマには、時代の空気をまとうようなフュージョン系の劇伴が流れていた。
松田優作主演の『探偵物語』(1979〜1980)ならSHOGUNの「BAD CITY」、沖雅也主演『俺たちは天使だ!』(1979)なら同じくSHOGUNの「男達のメロディー」、草刈正雄の『プロハンター』(1981)ならクリエーションの「ロンリーハート」。
スーツの皺、煙草の煙、乾いた風。あの頃の“アーバン”は、演技でも脚本でもなく、音楽のグルーヴが作っていた。
そして2020年、NHKドラマ『タリオ 復讐代行の2人』が、その“渋みの系譜”を見事に蘇らせた。浜辺美波と岡田将生が演じる異色のコンビが活躍するこの作品のサウンドトラックを聴くと、思わず「大野雄二が手がけたのか?」と錯覚してしまうほど。
洒脱なベースラインと軽やかなホーンセクション、アナログ・シンセの柔らかいうねり。70年代末〜80年代初頭のフュージョン黄金期が、デジタルの時代に再構築されている。
この劇伴をプロデュースしたのは、映画『モテキ』(2011)、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017)など大根仁作品で知られる岩崎太整。
アニメ『血界戦線』などでジャズ/ビッグバンド系のスコアを構築してきた彼にとって、この“70’s回帰”は必然だったのかもしれない。
流線形×一十三十一──都市の残像を鳴らすタッグ
岩崎はサウンド設計の段階で「この物語には、都会的で艶のある音楽が似合う」と直感したという。劇伴に参加したのはシンガーの一十三十一、そして彼女の盟友クニモンド瀧口(流線形)。2006年の名盤『TOKYO SNIPER』以来となる黄金コンビの復活である。
岩崎が一十三十一に声をかけ、彼女がクニモンドを招いたことで「流線形/一十三十一」の座組が完成した。音楽好きなら誰もが歓喜する人選だった。都会の夜のきらめきと、昭和歌謡的情感を共存させる彼らの音は、シティポップ再評価ブームのなかでも特異な位置にある。
一十三十一にとってこれが初めての劇伴だったが、実は彼女自身のアルバム制作が“予行演習”だったという。
「自分のアルバムも映画のサントラを作るような感覚でやっていた。『CITY DIVE』の後の2作(『Surfbank Social Club』『Snowbank Social Club』)はホイチョイ三部作をモチーフにしていたし、『THE MEMORY HOTEL』では実際に脚本を用意してシーンごとに曲を作っていた」 (Real Soundインタビューより)
『Surfbank Social Club』(2013)や『Snowbank Social Club』(2014)は、まさかのホイチョイ・プロダクションズへのオマージュだった。つまり、『タリオ』の劇伴は彼女が十年以上かけて温めてきた“架空の映画サウンドトラック”の延長線上にある。
結果として完成したアルバム『Talio Original Soundtrack』は、A面がフュージョン、B面がシティポップという二層構造を持つ。
M-2「タリオのテーマ」などのインストゥルメンタルは大野雄二的なスウィングを基調とし、M-1「金曜日のヴィーナス feat. 堀込泰行」やM-20「悲しいくらいダイヤモンド」などのヴォーカル曲はニュー・ミュージック的な甘美さで幕を閉じる。
この配置が見事に計算されている。追跡劇のスリルと、夜の街に漂うロマンスが同居する音楽設計。まるで“土曜21時枠の香り”をそのまま現代に転写したような完成度だ。
音楽のアーカイブとしての『タリオ』──70’sの夢と2020’sの距離
『タリオ』のサウンドトラックが特筆すべきは、単なるノスタルジーに留まらない点だ。アナログ・フュージョンのフォーマットを用いながら、録音・ミキシングは完全に現代的。
リズムセクションのグルーヴは強靭で、ギターのカッティングやブラスの配置は“再現”ではなく“再設計”として鳴っている。つまりこれは、懐古趣味の模倣ではなく、70’sの“構造”を素材としてリミックスした作品なのだ。
その象徴が、アルバムジャケット。デザインを手がけたのは、大滝詠一『A LONG VACATION』(1981年)、サザンオールスターズ「いなせなロコモーション」(1980年)などで知られる永井博。
真夏のプールサイドを思わせる青のグラデーションと、余白を生かした構図。視覚的にも、聴覚的にも“日本のアーバン・ポップ”が黄金期の質感で再生される。音楽と美術の関係まで含めたトータル・アートワークとしての完成度が、『タリオ』の独自性を決定づけている。
一十三十一の柔らかく官能的な声、堀込泰行の中性的なトーン。二人の声が重なり合う「金曜日のヴィーナス」では、シティポップ以降の日本的ロマンティシズムが濃密に描かれる。
それは都会の孤独でもあり、どこか“昭和の夢”の残り香でもある。アナログとデジタル、過去と現在、映画と現実。『タリオ』はそれらの間をゆるやかに漂う音楽のアーカイブであり、失われた時代のムードを“今”のフォーマットで再び照らし出すことに成功している。
男臭いフュージョン・サウンドと、リゾート系シティ・ポップの共存。その矛盾を美として提示するこのアルバムを聴くたびに、70年代の残響がふと蘇る。ビルの谷間を抜ける夜風、ネオンの反射、煙草の匂い。音が記憶を呼び起こす瞬間、私たちは再び“昭和の夢”の中へと戻っていく。
そして、その夢の中で鳴っているのは、確かに今の東京の音なのだ。
- アーティスト/流線形、一十三十一
- 発売年/2020年
- レーベル/ビクターエンタテインメント
- 金曜日のヴィーナス feat. 堀込泰行
- タリオのテーマ
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- 予告編
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