“クロッシングハーモニー理論”を応用してつくった、コーネリアスのプロデュース作品
Salyuというアーティストを今まで意識せずに歩んできた小生のポップカルチャー・ライフを、痛烈懺悔いたします!
いや、もちろん岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)の、架空のシンガーソングライターLily Chou-Chouの正体が、Salyuであることぐらいは先刻承知だった。
歌が上手いとか上手くないとか以前に、今時珍しいくらいに伸びやかで力強い声だな、という好印象もあった。
しかし、一貫して小林武史プロデュースで作品を発表し続けてきたこもとあり(僕はゼロ年代以降の小林武史ワークスに食指が全く動かないのだ)、彼女の楽曲は基本スルーしてしまっていたんである。
しかしSalyuは、小林武史の御用達シンガーとしてアーティスト・ライフを完遂する気はさらさらなかった。ヴォーカリストとしての多大なる自負も、ネクスト・ステージにのし上がろうという野心も持ち合わせていた。
インタビュー記事によると、彼女はクロッシングハーモニーなる複雑なハーモニー構築に並々ならぬ関心を寄せており、自分の音域や表現ならそれが可能だ!と信じきっていたそうな(相当な自信である!)。
そしてバンドのサポートメンバーが一緒だったという縁もあり、コーネリアスこと小山田圭吾にプロデュースを依頼するに至るんである。
salyu×salyu名義で発表された『s(o)un(d)beams』(2011年)は、まさにヴォーカリスト冥利に尽きるアルバム。
Salyuの変幻自在のヴォーカルはメロディー&ハーモニーとして、存在感のある声はリズムとして徹底純化→音素として抽出され、レイヤード→加工され、音楽を構成する全てのエレメントがSalyuカラーに染め上げられている。
コーネリアスが手がけるだけあって、いわゆる一般的な意味での“歌モノ”ではないものの、音の隅々にまでSalyuの息づかいが感じられるのがイイ!
ヴォーカル多重録音楽曲とでもいうべきM-1『ただのともだち』から、小生はテンションあがりっぱなし。四方八方から、彼女の声の断片が優しく耳に飛び込んで来る。
ややもすれば、無機質なエレクトロニカ・サウンドに傾倒してしまうところを、ゆらゆら帝国の坂本慎太郎によるシンプルなリリックを従えて、きちんと血の通ったナンバーにしているあたり、流石としか言いようがなし。
コーネリアスが、“クロッシングハーモニー理論”を応用して初めて作ったというM-6『奴隷』も、Salyuはことなげに複雑なコード&タイム感を自家薬籠中のものにしている。
夢の島公園陸上競技場で開催された夏フェス「WORLD HAPPINESS2011」で、実際に僕は彼女のステージを観たが、これが凄まじかった。
『ただのともだち』のPVでは、4人に分割したSalyuがそれぞれのパートを同時に歌っていたのだが、ステージではサポートヴォーカル3人を迎え、ナマでこの超絶難しいナンバーを歌い上げていたんである。
もうここまで来ると、ヴォーカリスト云々ではなく、ボリジョイサーカスとかと同一レベルで、パフォーマーとして畏敬の念を覚えてしまいます。
- アーティスト/salyu×salyu
- 発売年/2011年
- レーベル/トイズファクトリー
- ただのともだち
- muse’ic
- Sailing Days
- 心
- 歌いましょう
- 奴隷
- レインブーツで踊りましょう
- s(o)un(d)beams
- Mirror Neurotic
- Hostile To Me
- 続きを
最近のコメント