『クイック&デッド』(1995)
映画考察・解説・レビュー
クイック&デッド(原題:The Quick and the Dead/1995年)は、サム・ライミ監督による異色の西部劇。製作も兼ねたシャロン・ストーンを中心に、後にオスカー俳優となる若き日のレオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウなどが顔を揃える超豪華なキャスティングが実現。物語は、町を支配する絶対的な悪(ジーン・ハックマン)を倒すべく、一発の銃弾に全てを賭けるガンマンたちの心理戦と技術戦を描く。
サム・ライミのカメラが止まらない暴走劇
サム・ライミ監督/シャロン・ストーン主演の『クイック&デッド』(1995年)は、90年代が生んだ奇跡のボンクラ・ウェスタンである。
公開当時、批評家からは「中身がない」と袋叩きにされ、興行的にも大爆死した。だが2020年代の視点で見直せば、本作がどれほど奇跡的なバランスで成立していたかが痛いほど分かるはず。
マカロニ・ウェスタンのクリシェを煮詰めて煮詰めて、そこに『死霊のはらわた』の狂気をぶち込んだ結果、スクリーンには純粋な快楽だけが焼き付けられた。我々が目撃するのは、サム・ライミによる“西部劇の解体ショー”である。
通常のウェスタンならば、埃っぽいリアリズムや、静謐な緊張感を重視するだろう。しかし、ライミにそんな常識は通用しない。彼はこの映画を、実写映画ではなく1秒24コマのアニメーションとして撮っている。
カメラは常に動いている。ズーム、チルト、パン、そしてまたズーム。登場人物の顔面レベルまで寄ったかと思えば、次の瞬間には彼方へ飛び去る。
特に決闘シーンの演出は狂気じみている。互いの眼球を執拗にアップで捉え、時計の針がカチコチと鳴り響き、風が吹き荒れる。セルジオ・レオーネが確立したタメの美学を、ライミはカフェイン中毒のように加速させ、パロディの域にまで高めてしまった。
ユーザーが爆笑したという「影に穴が空くショット」、これこそが本作の真骨頂だ。悪党ジーン・ハックマン演じるヘロッドが放つ銃弾は、もはや物理法則を無視した死のレーザービーム。
人が撃たれれば、まるで風船のように吹き飛び、身体には綺麗な風穴が空き、そこから向こう側の景色が見える。影にすら穴が空く、こんな漫画みたいな表現を、大真面目に、しかも巨額の予算を投じてやってのける。
雨の中の決闘シーンですら、雨粒の一滴一滴が演出されているかのような作為的な美しさ。この「人工的な過剰さ」こそが、観客を90分間、一瞬たりとも飽きさせないドライブ感の正体である。
シャロン・ストーンという、絶対権力
本作を語る上で絶対に外せないのが、主演にしてプロデューサーを務めたシャロン・ストーン姐さんの存在。信じられないかもしれないが、当時まだアイドル俳優扱いだったレオナルド・ディカプリオの才能を、誰よりも早く見抜いていたのは彼女だった。
スタジオ側が難色を示すと、姐さんは「彼のギャラは私の給料から払うわ」言い放つ。ディカプリオの出演料は、シャロン・ストーンのポケットマネーから支払われたのだ。あの自信過剰で、でもどこか脆さを秘めたキッドの演技は、姐さんの投資が生んだ奇跡だったのである。
当時はオーストラリアの無名俳優だったラッセル・クロウも、「あの荒っぽい感じがいい」と一本釣り。撮影を遅らせてまで彼をアメリカに呼び寄せた。
現在オスカー俳優として君臨する二人の巨星が、一堂に会しているのは、シャロン・ストーンという目利きのプロデュース能力によるものなのだ。
彼女が演じるエレンは、男に守られるヒロインでもなければ、男を誘惑するファム・ファタールでもない。クリント・イーストウッドが演じてきたような名無しの男を、女性として体現している。
必要なのは、硝煙の匂いと、冷ややかな眼差しだけ。このストイックさこそが、シャロン姐さんの狙いだったに違いない。
悪党たちの饗宴、そして伝説へ
主役たちが輝くためには、最高の噛ませ犬と巨悪が必要だ。その点において、本作の配役は神がかっている。
町を支配する独裁者ヘロッドを演じる、ジーン・ハックマン。彼は『許されざる者』でアカデミー賞を獲った直後に、似たような、しかしもっと悪趣味な役を嬉々として演じている。
「俺が法律だ」と言わんばかりの傲慢さ、人の命を虫けらのように扱う冷酷さ。それでいて、食事のシーンではやけに美味そうに肉を食らう。彼はこの「漫画的世界」のルールを誰よりも理解し、楽しんでいるように見える。
そして忘れてはならないのが、ランス・ヘンリクセン演じるエース・ハンロンだ! 『エイリアン』アンドロイド・ビショップ役で知られる彼が、ここではキザでハッタリかましまくりのガンマンを怪演。
カードを操り、大口を叩く。登場した瞬間から、死亡フラグが立っている。彼がヘロッドにあっけなく(しかし派手に)始末されるシーンは、本作のハイライトの一つだろう。
勝ち抜きトーナメントという設定も秀逸だ。『ドラゴンボール』の天下一武道会を西部劇でやるようなもんで、構造がシンプルだからこそ、キャラクターの個性が際立つ。
確かに、興行的には失敗したかもしれない。だが、レオナルド・ディカプリオの若き日の輝き、ラッセル・クロウの野性味、ジーン・ハックマンの悪党ぶり、そしてシャロン・ストーンの豪傑ぶり、これらがサム・ライミの暴走演出でミックスされた本作は、今や唯一無二の幕の内弁当的映画となった。
- 監督/サム・ライミ
- 脚本/サイモン・ムーア
- 製作/ジョシュア・ドネン、アレン・シャピロ、パトリック・マーキー
- 製作総指揮/トビー・ジャフェ、ロバート・タパート
- 撮影/ダンテ・スピノッティ
- 音楽/アラン・シルヴェストリ
- 編集/ピーター・シン、ニール・トラヴィス
- 美術/パトリシア・フォン・ブランデンスタイン
- 衣装/ジュディアナ・マコフスキー
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