2017/11/2

『ボルサリーノ』(1970)拳で結ばれた友情の極致。ドロンとベルモンドが体現した、死のブロマンス

『ボルサリーノ』(1970)
映画考察・解説・レビュー

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『ボルサリーノ』(原題:Borsalino/1970年)は、ジャック・ドレーが監督し、ジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロンが共演したフランスのクライム・ドラマ。1930年代のマルセイユを舞台に、野心を抱く二人のチンピラ、ロシュ(ベルモンド)とフランソワ(ドロン)が、裏社会でのし上がっていく姿を描く。小さな抗争から始まった行動は、やがて組織犯罪と政治の結託を巻き込み、友情は権力と金に翻弄されながら崩壊へと進む。音楽はクロード・ボラン。時代の不穏な空気とギャングの美学が交錯する中で、暴力と欲望に支配された男たちの運命が交差する。

男と男のあいだにある暴力の祝祭

真の友情とは何か。『ボルサリーノ』(1970年)は、その問いに対して極めて原始的かつ肉体的な解答を与える映画だ。友情とは対話でも、共感でも、ましてや共有された理想でもない。それは拳と拳の衝突によってしか確立しえない一種の暴力的儀礼である。

ジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロン。フランス映画史を代表する二人のスターは、ここで言葉を超えて殴り合うことで互いを認め合う。

この共演はドロン自身の肝いりで実現したが、二人の間には撮影前から凄まじい緊張感が漂っていた。劇中、二人が初めて出会い、泥まみれになって殴り合う冒頭の数分間。これはスタントなしのガチンコ勝負であり、ドロンの冷徹なストイシズムと、ベルモンドの野性味溢れるエネルギーが真っ向から衝突する。

肉体が限界を迎えるその瞬間に、男たちは初めて「対等」になる。エアーズ・ロックのように堅牢で動かぬ友情は、流血と打撲の果てにしか結ばれない。『ボルサリーノ』が描くのは、暴力を媒介とした連帯という、極めて男性的な神話の再生である。

欲望から排除された女たち

舞台は1930年代のマルセイユ。港町の湿った空気と、犯罪の匂いが漂う街を背景に、二人のチンピラが裏社会でのし上がっていく。彼らの関係は、表向きはビジネスパートナー、しかしその実態は「一つの魂を分かち合う分身」に近い。

成功の象徴としての帽子「ボルサリーノ」をかぶり、洗練されたスーツで街を闊歩する二人の姿は、もはや犯罪者というより一対の神話的存在だ。だが、この華麗な装いの下では、常に裏切りと暴力が息づいている。

監督のジャック・ドレーは「二人のスターが同時に画面に収まる際の構図」に偏執的なまでにこだわった。一方の顔が影になれば、もう一方も同じ比率で影にする。この完璧な左右対称の美学の中に、女性が入る隙間など最初からない。

ベルモンドとボート遊びをした女性が殺されるシーンは、その排他性を象徴している。女性は快楽と死をつなぐ記号であり、彼女たちの不在こそが二人の絆を純化させる。

本作は「ブロマンス」という言葉が生まれる四半世紀以上前に、男たちが互いの存在の中にのみ快楽を見出す「閉じた愛」の原型を提示していたのである。

ブロマンスの終着点とデカダンスの香り

ベルモンドとドロンのツーショットには、圧倒的な映像的強度がある。光沢のあるフェドラ帽、仕立ての良いスリーピース、陽光を反射するクラシックカー。

プロデューサーでもあったドロンは、1930年代のマルセイユを完璧に再現するため、衣装だけで当時の映画数本分の予算を投じたという。だが、そのスタイリッシュさは銃声と血の臭いを隠すための「死装束」にすぎない。

ジョージ・ロイ・ヒル監督の『明日に向かって撃て!』(1969年)を思わせる軽快なバディ感は、実のところフランス的マチズモの最終形態としての悲劇を予兆している。

ラスト、ベルモンドが銃弾に倒れ、ドロンがその亡骸を抱きしめる。この結末はドロンが「スターとしての華々しい死」をベルモンドに譲り、自らは「永遠の喪失」を背負う生き残りとなることで、二人の神話を完結させようとした意図が見える。

しかし、現実の二人の間には、クレジットの順番(「アラン・ドロン制作」という表記が契約違反だとしてベルモンドが提訴)を巡る泥沼の裁判が発生した。

この法廷闘争さえもが、映画が描いた「対等であることの呪い」の延長線上にある。殴り合い、血を流しながら互いを求め続けた二人の物語は、死によってのみ聖域となる。

『ボルサリーノ』の銃声は、その永遠の約束の証だ。友情とは、共に笑うことではなく、共に滅びゆくことによってのみ完成する。ドロンが息絶えたベルモンドを抱きしめる時、そこには悲しみを超えたナルシシズムの極北が漂う。

暴力を通してのみ成り立つ愛、そして死によって完成する友情。本作は、男という存在の滑稽さと崇高さを同時に刻み込んだ、永遠のブロマンス叙事詩なのだ。

FILMOGRAPHY