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『インデペンデンス・デイ』(1996)破壊の快楽が映す国家の欲望と恐怖

『インデペンデンス・デイ』(1996)
映画考察・解説・レビュー

6 OKAY

『インデペンデンス・デイ』(原題:Independence Day/1996年)は、ローランド・エメリッヒ監督が手がけたSFディザスター大作。アメリカ各地に巨大宇宙船が出現する事件を軸に、人類が未知の脅威と向き合う姿を描く。大統領ホイットモア、科学者レヴィンソン、パイロットのヒラーらが、それぞれの立場から破壊に直面し、都市壊滅という危機の中で行動を選択していく。公開当時、その映像規模と群像劇の構成で大きな話題を呼び、エメリッヒ作品の代表作として知られている。

巨大宇宙船のスペクタクルとその俗悪さ

とにかくデカい。ひらすらデカい。やたらデカい。何がデカいかといえば、宇宙船である。『インデペンデンス・デイ』(1996年)に登場するエイリアンの母艦は、なんと月の1/3という途方もないスケール。

その圧倒的な巨大感が、地球の主要都市に次々と襲来してくる様は、スペクタクル映画の快楽そのものだ。だが「デカければいい」という発想には、どこか巨根信仰めいた俗悪さすら漂っていて、僕はあまり好きくないです。

しかし、この映画の“デカさ”は単なるサイズの問題にとどまらない。エメリッヒは、『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)や『タワーリング・インフェルノ』(1974年)といった70’sディザスター映画系譜を継承しつつ、その災害を宇宙人の侵略という形に変換した。

ポセイドン・アドベンチャー
ロナルド・ニーム

ディザスター映画は常に、都市や共同体が壊滅的危機に晒される場面を見せることで、破壊のスペクタクルを観客に供給してきた。本作はその伝統を拡張し、都市の高層ビルや象徴的建造物を次々に吹き飛ばすという、究極の災厄イメージを打ち出したのである。

善悪二元論とプロパガンダ的構造

さらに注目すべきは、公開された1996年という年だ。冷戦が終結し、アメリカは仮想敵を失っていた。かつてのソ連が担っていた絶対悪のポジションを、本作ではエイリアンが代替している。

冷戦後のアメリカが抱いた空白や不安を埋めるように、完全悪としての異星人が必要とされたのだ。つまり『インデペンデンス・デイ』は、冷戦後の国際秩序を背景にした、新しい敵像の創出装置でだったといえる。

その敵像をより鮮明にするために、本作は極端な善悪二元論を採用する。平和的共存を模索する大統領に対し、エイリアンは死んだ博士の身体を介して「皆殺しだ!」と嘲笑する。

敵は完全悪!人類は絶対的正義!その単純化こそが観客の感情を動員し、ナチス時代のプロパガンダ映画を思わせるほど戦意高揚的な構造を与えている。大統領が決戦前に放つ「今日こそ新たな独立記念日だ!」というスピーチは、力こそ正義と信じてきた超大国の思想を直截に表現する場面にほかならない。

とはいえ、本作はただの軍国主義映画では終わらない。アメリカ的価値観を体現するもう一つの要素――「家族再生」のドラマが組み込まれているのだ。パイロット役の主人公が恋人と結ばれ、大統領が娘を守る父親として描かれるなど、個々の家庭が危機を乗り越えて結束する姿が強調される。

国家の危機と家族の危機が並走し、最後には双方が回復を遂げる。ここには「家族の絆こそアメリカの礎」という保守的なメッセージが明確に読み取れる。

B級娯楽性と国家主義的マッチョイズム

映像技術の面でも、本作は90年代ハリウッドにおける転換点を示している。『ジュラシック・パーク』(1993年)以降、CGによる表現が一気に普及した時期にあたり、本作の都市破壊シーンや母艦の巨大さは、当時の最先端VFXを駆使して実現された。

炎に包まれて崩壊するホワイトハウスのショットは、映画史に残るCG表現のアイコンとなった。テクノロジーの進化そのものが「巨大宇宙船」のリアリティを保証していたのだ。

そして何より、この作品を語る上で外せないのはローランド・エメリッヒ監督の作家性。『スターゲイト』(1994年)から始まり、『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)、『2012』(2009年)へと続く一連の作品群において、彼は一貫して「巨大な破壊」と「人類の連帯」を描いてきた。

スターゲイト
ローランド・エメリッヒ

破壊の快楽を観客に提供しつつ、それを正義の物語として免罪する。この手法は『インデペンデンス・デイ』で確立され、以降のフィルモグラフィーに連なるテーマ的源泉となった。

荒唐無稽さもまた、本作の魅力である。大統領自ら戦闘機に乗り込み、かつて「宇宙人に拉致された」と豪語していたオッサンがカミカゼ・アタックで敵母艦を撃破する。B級映画的な楽しさはこのあたりに凝縮されている。

だがその背後にあるのは、アメリカが自国の威信をアブソリュート・パワーによって取り戻すという、国家主義的マッチョイズム。2001年の同時多発テロ直後に国民の9割が報復攻撃を支持した事実が示すように、アメリカにとって暴力の行使は常に「正義」として回収される。

つまり『インデペンデンス・デイ』は、スペクタクル娯楽映画の皮をまといながら、その無邪気な構造のなかにアメリカ社会の病理を映し出してしまっている。

巨大宇宙船の影に浮かび上がるのは、ただのエイリアンではなく、冷戦後の不安、国家主義の欲望、家族イデオロギー、そして破壊のスペクタクルを愛してやまないハリウッド自身の姿なのだ。

DATA
  • 原題/Independence Day
  • 製作年/1996年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/145分
  • ジャンル/SF、パニック
STAFF
  • 監督/ローランド・エメリッヒ
  • 脚本/ローランド・エメリッヒ、ディーン・デブリン
  • 製作/ディーン・デブリン
  • 製作総指揮/ローランド・エメリッヒ、ウテ・エメリッヒ、ウィリアム・フェイ
  • 撮影/カール・ウォルター・リンデンローブ
  • 音楽/デヴィッド・アーノルド
  • 編集/デヴィッド・ブレナー
  • 衣装/ジョゼフ・ポロ
CAST
  • ウィル・スミス
  • ビル・プルマン
  • ジェフ・ゴールドブラム
  • メアリー・マクドネル
  • ジャド・ハーシュ
  • ロバート・ロジア
  • ランディ・クエイド
  • マーガレット・コリン
  • ブレント・スピナー
  • マーガレット・コリン
  • ブレント・スピナー
FILMOGRAPHY