【ネタバレ】『未知との遭遇』(1977)
映画考察・解説・レビュー
『未知との遭遇』──映像の魔術師が描いた“他者との接触”のファンタジー
『未知との遭遇』(原題:Close Encounters of the Third Kind/1977年)は、スティーヴン・スピルバーグが監督・脚本を手がけたSF映画。インディアナ州に暮らす電気技師ロイは、夜間の異常現象を目撃したのをきっかけに未知の飛行物体の存在を信じ、家族や職場から孤立していく。政府調査団が接近遭遇の真相を探る中、彼はデビルズ・タワーへ導かれ、謎の光と音の現象に立ち会う。
技巧と童貞マインド
スティーヴン・スピルバーグ論において、批評家たちがしばしば指摘するのは、技巧偏重への懐疑である。彼は観客を魅了する映像装置の魔術師でありながら、その背後にある人間的真情を欠落させているのではないか、という批判である。テクニックに溺れ、観客を安易に泣かせ笑わせる“ナンパなプレイボーイ”に堕してはいないか――。
一方で、スピルバーグには決して失われることのない童貞マインドがある。女性への憧憬に喩えられるような、オカルティックや神秘的なものへの根源的好奇心であり、映像体験を通じて他者と出会おうとする誠実な探究心である。技巧に長けながらも、観客と世界に向けた純粋なまなざしを保持する稀有な作家、それがスピルバーグなのである。
『未知との遭遇』(1977年)は、そんな資質が最も色濃く表れた作品だ。デビルズ・タワー上空で巨大なマザーシップが旋回する場面は、映画史上における映像的瞬間の頂点の一つ。観客は主人公ロイ(リチャード・ドレイファス)とともに「第三種接近遭遇」を経験する。映画はここにおいて単なる鑑賞対象ではなく、体験の装置として立ち現れる。
ディズニーとの接続と文化的記憶
スピルバーグ自身が筆を取った脚本の粗さは否めない。説明不足のエピソードや人物造形の弱さが目立つ場面もある。しかし、それらを凌駕するのが圧倒的な映像と音響の力がある。
無数のUFOが放つ光のページェントは、宗教儀礼的な荘厳さと祝祭的美を兼ね備え、異星人との電子音による交信はシンフォニーのように調和する。ここにあるのは単なるスペクタクルではなく、人類と他者との対話を媒介する芸術としての映画の姿である。
また本作は、スピルバーグのディズニーへの敬意も色濃く反映している。序盤に登場する『ダンボ』(1941年)の映写場面や、ラストで流れる『ピノキオ』(1940年)の「星に願いを」の旋律は、偶然ではない。スピルバーグは、70年代のアメリカにおいてディズニーが示した「夢想の共同体」への信頼を再演し、ファンタジーとリアリズムの間で独自の均衡を生み出している。
1970年代アメリカ映画史における位置づけ
1970年代のアメリカ映画史において、『未知との遭遇』は特異な位置を占める。1960年代後半のニューシネマ運動は、アメリカ映画に前例のないリアリズムと社会批評性をもたらした。
しかし、70年代中盤になると商業主義的回帰が進み、巨額予算を背景に観客動員を狙ったブロックバスターの時代が幕を開ける。『ジョーズ』(1975年)の成功によってこの流れは加速し、映画は物語の革新よりも体験の興奮に価値を置く傾向が強まったのである。
この文脈で重要なのがジョージ・ルーカスとの比較である。ルーカスの『スター・ウォーズ』(1977年)は、スピルバーグの作品とほぼ同時期に公開され、異なるアプローチで同時代の観客を魅了した。ルーカスは神話構造と綿密な世界構築に重きを置き、SFファンタジーを通して「宇宙規模の物語」を描いたのである。
一方でスピルバーグは、日常的リアリティと個人の感情を起点に、宇宙的未知と接触する“体験としてのファンタジー”を提示した。スピルバーグは「『未知との遭遇』を通じて、異文化や未知の存在との接触を描くことで、人間の理解と共感の重要性を訴えたかったと」述べている。ルーカスは神話学的構築者、スピルバーグは童貞性を保持した感受性豊かな探求者といえるのかもしれない。
永遠のヒーローとしてのスピルバーグ
批評家たちはスピルバーグをしばしば「現実の描けない監督」と揶揄する。しかし『未知との遭遇』における「星に願いを」の旋律は、彼の思想の核心を象徴している。夢を抱く者の願いは、現実の壁を越えて届けられる――その信念こそ、彼の全フィルモグラフィを貫くテーマなのだ。
だからこそ、彼の作品は大衆から熱狂をもって迎えられる。ラストに登場する、フランソワ・トリュフォー演じるラコーム博士の「君がうらやましい」という言葉は、観客でなくスピルバーグ自身に向けたものではないか。トリュフォーは批評家を経て映画監督に転身した人物なのだから。
少なくとも僕にとって『未知との遭遇』は、不動のナンバーワン映画だ。彼がこれからどんな凡作を作ろうと、この作品がある限りスピルバーグは永遠のヒーローであり続ける。
- 監督/スティーヴン・スピルバーグ
- 脚本/スティーヴン・スピルバーグ
- 製作/ジュリア・フィリップス、マイケル・フィリップス
- 撮影/ヴィルモス・ジグモンド、ウィリアム・A・フレイカー、ダグラス・スローカム、ジョン・A・アロンゾ、ラズロ・コヴァックス、フランク・スタンレー
- 音楽/ジョン・ウィリアムズ
- 編集/マイケル・カーン
- 美術/ジョー・アルヴス、ダン・ロミノ
- 録音/フランク・ワーナー
- 激突!(1971年/アメリカ)
- 未知との遭遇(1977年/アメリカ)
- レイダース/失われたアーク《聖櫃》(1981年/アメリカ)
- E.T.(1982年/アメリカ)
- オールウェイズ(1989年/アメリカ)
- シンドラーのリスト(1993年/アメリカ)
- ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク(1997年/アメリカ)
- プライベート・ライアン(1998年/アメリカ)
- アミスタッド(1998年/アメリカ)
- A.I.(2001年/アメリカ)
- キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(2002年/アメリカ)
- マイノリティ・リポート(2002年/アメリカ)
- ターミナル(2004年/アメリカ)
- 宇宙戦争(2005年/アメリカ)
- ミュンヘン(2005年/アメリカ)
- インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国(2008年/アメリカ)
- 戦火の馬(2011年/アメリカ)
- タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密(2011年/アメリカ)
- リンカーン(2012年/アメリカ)
- レディ・プレイヤー1(2018年/アメリカ)
- ウエスト・サイド・ストーリー(2021年/アメリカ)
- フェイブルマンズ(2022年/アメリカ)
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